『新安保法案』 2015.07.17 7月16日新安保法案が衆議院を通過した。従来、憲法違反にあたるとされていた集 団的自衛権の行使に関わる憲法解釈を合憲と変更した昨年7月の閣議決定に基づく新安 保法案を安倍政権の下で強行採決した。このような暴走を許した背景として7/16毎日新 聞朝刊一面コラム”民意を畏れぬ「数頼み」”に、アベノミクスへの期待感のほか、何 よりも「決められない政治」を嫌う国民感情を挙げている。 アベノミクスは3本の矢:大胆な金融政策/機動的な財政政策/民間投資を喚起する成長 戦略から成るとある。1本目の矢は急激な円安誘導とそれに伴う株高に効果が見られる。 そして、これが前述のアベノミクスへの期待感の根底をなすが、それ以外に顕著な効果 は見られないように思う。 円安により輸出産業が好調と言われている。貿易には輸出と輸入がありそれらの決済は 通常、機軸通貨(米ドル)により行われる。我が国の大抵の輸出産業は海外から何らか の資材を輸入し、もしあればそれに国内調達資材を加え、それらを加工して輸出してい る。輸出において輸入及び国内調達資材の費用を回収し、さらに加工による付加価値分 を上乗せして販売価格が決定される。輸入資材(加工後を含む)の輸出入は基軸通貨で 行われるから販売価格における増減は生じない。円安により販売価格が下がるのは国内 調達資材と付加価値分に限られるが国内調達の比率は低い。そこで大きな低減要素は人 件費、即ち給与である。 第二次安部内閣が発足した12年12月に85円/ドルだったものが現在125円近くになり、凡 そ40円、47%下落した。それで日本国内の全ての資産がドルベースで政権発足時の (100-47=53)%になっている。例えば、月給40万の人は発足時に比べ18.8万円の減額、即 ち21.2万円の給料に相当する。安部総理は企業に賃上げを要請しているが、これだけの 下落を補えるはずがない。元々アベノミクスは国内の高くなりすぎた賃金を抑えること を主眼とするものと考えると、賃上げ要請は矛盾する。 豊かな暮らしは我々の人的貢献に対する高い評価が齎すものではなかろうか。そう考え るとアベノミクスへの期待が萎む。 次に、「決められない政治」は民主主義の弱点である。主権在民が日本国憲法で定めら れている。主権は為政者でなく国民にある。主権者が多いので皆の合意を得るのに手間 がかかる。決められる政治の典型は「我は法なり」の専制君主制である。しかし、その 弊害は周知の通り、このような制度を望む人はいないと思う。そこで前記の弱点はある が、近代国家で民主主義に則り立憲主義を採用しているところが多い。 立憲主義とは、政府の統治を憲法に基づき行う原理で、政府の権威や合法性が憲法の制 限下に置かれていることに依拠するという考え方とある。今回の憲法解釈はこの考え方 に反すると思う。「決められない」と諦めるのではなく、粘り強く努力し少しづつ前進 できると思う。そうしないと、為政者を縛る憲法を為政者が恣意的に変更できる専制君 主の政治が現実のものとなってしまう。 彼等は選挙で選ばれたと主張するが、次回の選挙で主権者の反撃を受けることを忘れて いる。我々はそれを忘れずできる限り何時でも意思表示をすると共に次回の選挙でそれ を示したいものだ。 以上