『英文翻訳あれこれ』           2003.07.19

      



 私は趣味で米国の輸出管理規則(EAR)の翻訳をしています。

大抵の方が若い頃から英文に接し、慣れ親しんでおられるので、英文翻訳なんて

簡単と思っておられるでしょう。しかし、英文は一般的に直截簡明に書かれてい

るので、一寸した冠詞の有無、差異にも気を配っていなければ正しく訳すことは

できません。

丁度二年前のこの頃でしたが、§734.3(b)の「EARの規制を受けない品目」に

ついて、次の文の訳に窮してしまいました。

      Foreign made items that have greater than the 

      de minimis U.S. content based on the principles

      described in §734.4 of this part.

これを直訳すれば、’本章の§734.4 に記述する原則に基づくde minimis な

米国成分(比率)を超える外国産品目’はEARの規制を受けないとなります。

de minimisと言うのは、ラテン語の格言 ”法律は’些事’を顧みない”の中の

’些事’に当たる部分だそうです。

本章の§734.4 に記述するとあるように、この部分を読めば前記英文は、米国成

分の占める割合が基準値以下の外国産品目はEARの規制を受けないことを規定

せんとしていることは明白です。

ところが、私には前述の直訳からそのような意味に取ることができなかったので

す。何故かと言うと、どう言う訳か、直訳に『米国成分を有する』を加えて、

’本章の§734.4 に記述する原則に基づくde minimis な米国成分を超える

『米国成分を有する』外国産品目’の意味に取ってしまったのです。

そこで、私は専門の掲示板に投稿して教えを乞いました。

そうすると、いろいろな意見が交わされました。

主な意見は、誤植だと言うものです。正しくは'do not' have とあるべきところ

が'do not'が抜け落ちていると言うものでした。

私を含めて、それに反論する人達もいました。論戦は一ヶ月近く続きましたが、

誤植であることについて、当時のBXAに確認したはずとの情報や、米国に永ら

く暮らした方からも'do not'を入れなければ正しい意味に取れないとの意見があ

りました。そこで、管理人からしばらく議論を凍結しようとの申し入れがあり中

止になりました。

あれから二年以上経過しましたが、前述の条文は訂正されることなくBIS

(旧BXA)の掲示板に掲載されています。

そこで、私はどこで意味を取り違えたのか考えてみました。

その一つが前述のように、何故か分からないが、条文には書かれていない

『米国成分を有する』を加えてしまったことだと気付きました。

二つ目は、the de minimis U.S. contentと言うのは、§734.4に記述された

基準若しくは基準値を言うので、この条文はこれを超える外国産品目となり、

正しい意味に取ることができることです。それは、定冠詞 theから§734.4 の

タイトル de minimis  U.S. contentを指していることが分かります。

三つ目は、have の後にcontentが省略されているのではないかと考えたことです。

これを加えれば、’基準値を超える成分を有する外国産品目’はEARの規制を

受けないとなり正しい意味に取ることができます。

なお、この成分は文脈上 外国成分であることは明らかであり、だからこそ省略し

てあるとも言えます。

これは、先程の「米国成分の占める割合が基準値以下の外国産品目」と同一の

意味を有することは理解して戴けると思います。ここでは、米国成分でなければ

外国成分であり、従って、基準値を超える成分の成分とは外国成分であり、その

基準値とは(1−米国成分基準値)になります。

 最後に、感想等を付け加えて本稿を終えたいと思います。

私はgreater than の than が接続詞か前置詞か迷いました。辞書を見ると前置

詞の場合の一例として、[数量を示す語を伴って]・・・より:There were 

fewer than twenty people....の例が記載されていましたが、本稿のthe de

 minimis U.S. contentが数量とは思わなかったので接続詞と考えました。

そうすると、than の前後の節において省略されている述語がある訳でそれを如

何に補うべきか腐心しましたが、どうもしっくりしませんでした。

今、前述の二つ目と三つ目を加え、次の例文 2B229.b.1. Journal diameter

greater than 75 mm. と比較すると、これが前置詞であることが容易に理解さ

れます。

このような文法論議を展開すると、文面がどうこうというよりも法令の趣旨を

汲み取って、それを理解し遵守することが重要ではないかと忠告して下さる方

もありました。

それはさておき、文法も時と共に変化するでしょうが、書かれたものから万人

が共通の解釈をするためには、書く側も読む側も文法に沿った書き方、読み方

をしなければならないと言うことです。法令関係の文章では特にそうです。

しかしながら、法令関係の文章は日本語の場合でもそうですが、英文でも一文

が大変長く、どれがどこまで係っているのか理解するのに苦労し、間間こんな

ものであろうと自分勝手に理解することがあります。

その場合でも、良く読めば文法と言う約束事によって、書かれており誰もが同

じ解釈をすることができるのです。(「英文翻訳のつぼ」参照)

気を付けなければならないのは、何となくこうではないかと思って解釈しては

ならないことです。翻訳をする上では、先ず文面上だけでも一意的解釈ができ

るまでしっかり読み取りたいと願っています。それを日本語に置き換える作業

において、個人の創造性を発揮すれば良いと考えています。

                                 以上

[訂正]'10.06.08

  上記論述に誤りがあるので訂正する。

  問題の原文は現在次のように訂正されている。

  Foreign made items that have less than the de minimis percentage of

    controlled U.S. content based on the principles described in §734.4

    of this part.

  訂正前の原文は'do not'が抜け落ちた誤植であったことを表している。私も

  the de minimis U.S. contentを直訳のような具体的な米国成分含有率とせ

  ず、§734.4に記述されたde minimis ruleの如く解釈する誤りを犯した。