『参議院議員選挙と二大政党制』        2004.8.1

      



 明日(7/11)は参議院議員選挙が実施される。新聞報道によれば自由民主党の苦

戦が伝えられている。小泉政権の構造改革が遅々として進んでいないとか、年金

法案の強行裁決への反発や、イラク多国籍軍への参加に軍国主義への回帰を懸念

する声などが聞かれる。

昨年の衆議院議員選挙で民主党が議席を延ばし、二大政党制の実現が取沙汰され

るようになってきた。この選挙結果次第では大きな地殻変動が生ずるであろう。

二大政党制の良し悪しは別にしても、それを実現する基盤がこの日本にあるのだ

ろうか。民主党がその一翼を担い得るのであろうか。

今回の選挙における自民、民主の主張に大きな隔たりはないと言われている。そ

の方が政権交代が行われた時のブレが少なく望ましい面もある。しかし、それで

は従来の自民党政権の派閥間たらい回しと同じではないか。

欧米の二大政党のように、そこは譲れない明確な相違点、スタンスを民主党は確

立しているのか。昨年の自由党との合併は鳩山代表の時には拒否し、彼を代表か

ら引きずり降ろしておきながら、菅代表に代わり衆議院選挙がまじかに迫ると合

併が実現できたのは単なる選挙目当てと言われても仕方がない面もあろう。

また、明日の選挙の直前にも菅代表の辞任に伴う後任に元自由党党首を据えよう

として失敗し、No.2の岡田氏を代表に選出した。この間の事情も選挙のため

に兎に角早く収束させる必要に迫られてのことである。

元々民主党は選挙を戦い易くするために主義・主張の異なる多数の勢力を結集し

て成立したものであり、まだ成立後日も浅く内部の調整が充分に行われていると

は言い難い。

従って、私は二大政党の受け皿となる政党は未だ確立されていないと考える。

次に、選挙民に二大政党制を維持する基盤があるのであろうか。

五十五年体制が維持されていた時代には、自社間の優位差は明確で揺るぎないも

のであった。そして、選挙民も保守層と革新層がはっきりと分かれており、しか

も固定化していた。それが政治不信の加速と相俟って浮動層の増大を齎し、遂に

一億総浮動層化したのではないかと私は大変憂慮している。

それは労働者の組合離れによる革新層からの遊離、農漁村並びに既得利権集団の

保守層からの遊離により国民全体が浮動層と化しているように思われる。

浮動層と言うものは、是々非々を基とするためその時々のムードに左右され勝ち

であり長期的な視野を欠き易く、二大政党制の基盤とはなり難い。

このように現在の日本には未だニ大政党制の基盤は確立されていないと考える。

民主主義における政策の実現には時間と努力を必要とするので、遅々としたもの

であっても着実な実行が必要である。空白の十年と言われる細川政権後の推移を

見れば、一度政治的混乱に陥ると回復するのに莫大な時間と損失を要するので、

慎重な選択が求められていると思う。

以上が選挙前日における私の感想である。

選挙結果を改選前後の増減で表すと、自民1減、公明1増、民主12増、共産11減、

社民増減なし、その他4減であった。そして、改選議席数は121で与党はその過半

数に1議席満たなかった。(改選結果は次の通り、自民49、公明11、民主50、

共産4、社民2、その他5、計121)

メディアはこの選挙を小泉政権の信任投票と位置付け、大きな見出しで自民敗北

と伝え、さらに二大政党制の到来を強く示唆した。

しかし、それは間違った見方だと私は思う。非改選議席を合わせると与党は相変

わらず絶対安定多数を確保しており、この結果が議会運営に支障をきたす要因に

はなっていないのだから。敗北と言うなら共産党を指すべきである。

民主党の議席増は躍進と言えるが、それは共産党の減員数にほぼ等しいことから

その票がそっくり民主党に流れたと考えてもおかしくない。何故なら、自民及び

公明の議席の増減はどちらもほぼゼロなのだから。

小泉政権が信任されなかったかどうかも、与党の増減数がゼロであって、かつ院

の絶対安定多数が与えられていることから不信任とは言えまい。

初めに述べた小泉政権に対する反発や懸念の声は尤もだと思うけれど、実際の選

挙結果はそれにも係わらず地殻変動はおろか、今のところ与党内の綻びもみられ

ない。これは不満はあっても現政権の存続がよりましな選択と選挙民が判断した

結果ではなかろうか。

翻ってメディアの見方を考えて見るに、余りにも批判の声に重きを置き現実の結

果に目を向けない思考となっているのではなかろうか。(年金問題にしても、不

完全・不充分の批判が続出していても、政治は今判断しなければならない場合が

あるのだからその声の裏で賛成票を入れた者も多いと思う。)

一方、この選挙結果では野党、民主党が現実に政権に打撃を与え、或いは議会運

営を左右する力は与えられなかった。

政権交代ができる政治勢力の確立は、日本の民主主義発展に重要な役割を果たす

はずで、その芽らしきものが民主党の躍進ならば、その立場を確実にするために

民主党は党内調整と明確な相違点を早急に確立して貰いたいと願っている。

                                 以上