『英文翻訳あれこれ』(ニ)        2006.04.18

      



 私は趣味で米国の輸出管理規則(EAR)の翻訳をしています。

リスト規制、カテゴリー6−センサー及びレーザーを翻訳し、私のホームページ

に掲載しました。そこでこのカテゴリーの翻訳において苦労した点を思いつくま

まに纏めて見ようと思います。先ずそれらをテーマ別に分類し、次にその中身を

解説します。

(テーマ;全て’偽’の設定をしている)

1.array hose:アレーホース(6A001.a.2.b.4)は、アレーと観測船を結ぶ配線の

  保護チューブか。

2.silicon and other material based 'microbolometer'(6A002.a,N.B.)は、

    シリコン及び’マイクロボロメーター’を基材とするその他材料か。

3.item1;and item2;or item3;(6A995.a.2;and a.2.a;or a.2.b;)において、

  andはorと同義語か。

4.optical fabrication technologies(6E993.a)は、光学器械を用いた製作

  技術か。

5.a surface figure exceeding lambda/10(6E993.a.2)における'surface 

  figure':'表面の数値'とは外形寸法か。

(解説)

1.アレーホース

  a.2.bは曳航ハイドロホンアレーであって、・・・となっています。ですか

  らアレーホースもハイドロホンアレーの一形態のはずで、保護チューブのよ

  な部分品ではありません。英文もアレーとホースの二つの名詞を重ねて一つ

  の名詞を作っていますので一体構造であることが類推できます。

  しかし、私はアレーを曳航するワイヤーのようなものを想定し、両者は分離

  しているものと思い込んでしまったのです。

  インターネットで調べ、ホースにアレーを組み込んだ記事を見て質問しまし

  たが回答はありませんでした。最後は経済産業省のwebmasterに尋ねて一体

  構造であることを確認しました。

2.based 'microbolometer'

  bolometerとは電磁放射エネルギー測定用の抵抗温度計のことです。microが

  付いているので、微細な抵抗温度計要素を一つの基板に多数集積したものを

  言います。

  EARではbased on 'microbolometer'(6A002.a.3.f)のようにbased on 〜

  の形でしばしば使われるので私はそれと混同したのです。

  しかし、a computer-based(=computer-aided) text-preparation system:

  コンピュータによるテキスト作成システムの例から分かる通り、これは

  「シリコン及びその他材料を使用した’マイクロボロメーター’」と訳し

  ます。on がなければ目的語を取らず、〜basedは〜が用いられたの如く形容

  詞の働きをします。

3.item1;and item2;or item3;

  先ず、セミコロンで一つ一つの品目が区別されています。そしてその一群の

  品目の最後の品目の前に通常 orを付けます。しかし、and を付けた時はそ

  れ以降の品目はand の前の品目であって、かつ、の意味ですから後の品目は

  前の品目の中に含まれていなければなりません。

  従って、item2 又はitem3 はitem1の細分類ですが、これらに細分できなく

  てもitem1に属するものはitem1に分類されます。即ち、分類番号が3品目あ

  ることになります。

  このような句読点をpunctuationと呼びますが、本例はそれを見事に駆使し

  ものだと感心しました。なにしろ、item1を一つの独立した品目として表現

  し、しかもitem1をitem2又はitem3の前提条件とすべく、たった一言 and で

  表わしているのですから。

  これと良くにた例として、expression:item1;or item2;(6A995.b.1: b.1.

    a;or b.1.b;)があります。expressionに続くコロンは、これから

  expressionを前提条件とする品目(item1,item2)を列記することを示してい

  ます。しかし、expressionが前例のような一つの独立した品目ではないこと

  に注意する必要があります。

4.optical fabrication

  opticalは’光学(上)の’と言う形容詞です。私はこれを光学器械を用い

  たと解釈したのですが、それではなかなか意味が通じないのです。

  6E003.d.2 にも同じくoptical fabrication technology が出ているのです。

  そこで、両文を比較対照して見ました。そうするとoptical と言うのは光学

  部品のことであって、これは光学部品製作技術と訳すべきことが分かりまし

  た。’光学の’と言うのを光学器械を用いたと解釈するのは間違っているこ

  とに気付きました。このようにoptical:光学のと言えば、既に記述された光

  学関係の何かと読者に分かっているものを指しているようです。

5.a surface figure

  a surface figureについても関連する文章が6E003.d.2に出ているのです。

  それはシングルポイントダイヤモンド旋削技法に係わるものであって、曲面

  の仕上げの面精度を規定するものです。

  ですから、それを受けて本文のa surface figureとは光学面の面精度を表わ

  す数値であり、またexceeding lambda/10とは面精度がλ/10より良いもの、

  即ちλ/10未満のものとなることが分かります。(λは設計波長)

  exceeding 超える(すぐれている)と言っても、何が超えるのかを特定しな

  ければその数値が大きい(すぐれている)のか小さい(劣っている)のか区

  別できません。それが何を指しているのか前文を良く精査して理解しなけれ

  ばならないことを痛感しました。

                                以上