『英文翻訳あれこれ』(三)        2006.06.02

      



 私は趣味で米国の輸出管理規則(EAR)の翻訳をしています。

リスト規制、カテゴリー7−航法関連及び航空電子工学を翻訳し、私のホームペ

ージに掲載しました。そこでこのカテゴリーの翻訳において苦労した点を纏めて

見ました。先ずそれらをテーマ別に分類し、次にその中身を解説します。



(テーマ)

1.名詞を複数個連ねた巨大名詞の意味するもの

2.by が先行する動詞の受動態の行為者を示さない場合

3.関係代名詞 that の前には前置詞はつけられないこと

4.関係代名詞の先行詞は直前の名詞句であって、直前の名詞ではないこと

5.過去分詞が形容詞的役割を果たす場合、その前後どちらの名詞句を修飾して

  いるのかを見分ける方法

6.文中における句と句の修飾関係の見分け方



(解説)

1.名詞を連ねた巨大名詞

  7B003の関連する規制:2.)には11種類の試験器又は設備が列記されていま

  す。それらの名称は3個以上の名詞を連ねたものとなっています。

  例えば、IMU(inertial measurement unit) platform tester 等です。

  このplatformは台座ではなく(試験)基盤を表す。また、その訳を日本機械

  工業連合会の訳に合せ訂正した。



  従って、本項における以下の議論には誤りがあるが参考のために残す。

  IMU が慣性測定ユニットと言う一つの装置であることは分かっています。

  しかし、次のplatform:台座との関係はどうでしょうか。具体的にはIMU が

  台座に付けられているか、いないかが問題なのです。このCCLにはこれら

  の試験器の機能が書かれていません。そこで、別の資料を調べて見ると、こ

  の試験器はIMU を台座に取付けて振動試験をするものと分かりました。

  従って、これを台座付きIMU試験器と訳すことにしました。

  この検討過程を振り返って見ると、IMU を付けないIMU用台座のみの試験器

  の方が特異なものだから、その場合は platform designed for IMU tester 

  のように表現されているのではなかろうかと思いました。



2.by が受動態における行為者を示さない場合

  7D101 の関連する規制:2.)において、...,not designed for use on civil

    aircraft by civil aviation authorities....とあります。この by は文脈

  上からも前の designed の行為者に関係するものではなく、直前の civil

  aircraft を修飾するものだから、民間航空当局の定める民間航空機・・・

  の如く訳しました。

  また、7D003.b において、....to the level controlled by 7A003 by 

    continuously combining....とあります。前の by はcontrolled の行為者

  を表わしますが、後続の by は行為者ではなく手段を表わします。

3.that の前の前置詞

  7D002 の関連する定義において、.....(INS) in that an AHRS provides...

  とあります。関係代名詞 that の前には前置詞は付けられないから、この

  that は接続詞であって、成句 in that 〜= because であることが分かりま

  した。

4.関係代名詞の先行詞

  7A002.b の技術的な注釈において、....is the angular error buildup 

    with time that is due to white noise....とあります。この文において

  関係代名詞 thatの先行詞を直前の time とするとホワイトノイズにより引

  き起こされる時間となり意味をなしません。先行詞は is に続く名詞句です。

  そうすると、この部分はホワイトノイズにより引き起こされる一定時間内に

  蓄積された角度の誤差、と訳せ意味が分かります。

5.過去分詞が形容詞的役割を果たす場合

  当該過去分詞に続く前置詞の有無により、前置詞がある場合は前を無ければ

  後を修飾するようです。そのうちのintegrated の例を次に示します。

   @7D003.b において、.....hybrid integrated systems....

   A7A003 の関連する用語の定義において、.....geo-mapping data

        integrated to provide accurate navigation information.....

   @は前置詞が無いから後を、Aは前を修飾します。この部分の訳は次のよ

    うになります。

   @は、.....ハイブリッド統合システム....、Aは.....精密な航法情報を

  提供するために統合された地図データと訳せます。これは当該過去分詞が目

  的語を取る時は後続する前置詞を伴うものと解釈すれば良いと思います。

6.句と句の修飾関係

  これは一律には定まらないように思っています。注意深く読んで、文脈上か

  ら判断しなければならないと思います。次に幾つかの例を示します。

   @7A002.b の技術的な注釈における、'angle random walk' is the 

    angular error buildup with time that is due to white noise

        in angular rate.

      *ここで、in angular rate が直前のwhite noiseを修飾するとすれば、  

       角速度で表わしたホワイトノイズとなって意味が通じません。これは

    その前のthe angular errorを修飾します。もう少し詳しく見ると、

    buildupからnoiseまでの句で修飾されたthe angular errorをさらに

    修飾しているものと考えられます。

   A7A003 の関連する規制における、.....,and specially designed 

        components therefor specifically designed, modified......

      *ここで、specially から二つ目の designed までは一つの句ではなく、

    therefor までの前半と残りの後半部分に分割されます。それは文脈か

    ら明らかなことですが、英文ではそこに句読点を入れないようです。

    ちなみに、この部分の訳は、・・・、並びにそのために特別に設計さ

    れた部分品であって、・・・・特別に設計され、修正され・・・とな

        っています。

   B7A003.a.1 における、....alignment of 0.8 nautical mile per hour 

        Circular Error Probable(CEP) or less;

      *ここで、0.8 から (CEP)までは一つの句’1時間につき0.8海里CEP’

    なのですが、これでは分かりにくいと思います。日本語に訳す時は次の

    ようにします。’平均誤差半径(CEP)で表わした時1時間につき0.8海里’

    とします。

                                以上





[改訂来歴]

 REV1 '09.7.31  1.項のplatform testerにおけるplatformは台座ではなく、

         (試験)基盤を表す。また、その訳を日本機械工業連合会の

         訳に合せ訂正した旨記載した。

         3.項において’関連する規制’→’関連する定義’に訂正。