『英文翻訳あれこれ』(四)        2006.09.04

      



 私は趣味で米国の輸出管理規則(EAR)の翻訳をしています。

リスト規制、カテゴリー8,9を翻訳し、私のホームページに掲載しました。

そこでこのカテゴリーの翻訳において苦労した点を纏めて見ました。

先ずそれらをテーマ別に分類し、次にその中身を解説します。

その前に翻訳作業を通じて感じたところを感想として記します。



(感想)

 これらカテゴリーについては輸出令別表第1及び外為令別表の規定とほぼ一致

しています(但し、カテゴリー0,1について私は未だ確認していません)。

詰まりそこに訳文があるのです。何故かと言えば、本邦の輸出管理はワッセナー

・アレンジメントを始め各種国際レジームにおける合意に基づき実施されており、

その合意の根底にあるのがEARだからだと思っています。

従って、私の翻訳作業も本邦の規定(以下これを本邦訳と呼ぶ)を大いに参照し

つつ、とんでもない誤訳とならぬよう気を付けています。その中で本邦訳の的確

さに感心しています。恐らくカテゴリー毎に専門知識を有する本邦訳者が複数お

られ、分かり易く、的確な表現となるよう苦心されたものと思います。

その一方で私自身の歩みの遅さ、英文法の基礎知識不足に苛立ちを覚えます。

全編を通してなるべく同じ訳語に統一するよう、ノートに記しているのですが、

その検索手段がノートをめくるだけですから時間ばかり掛かります。単語帳ファ

イルのようなものを作って、パソコンで自動検索できると良いのですがそれは先

のことです。

9E003にhot section "technology"とありますが、その由来はsection 6 of EAA

にあるようなのです。そこで、google 検索をして見ても、EAA のまとまった条

文に辿り着けないのです。BISにその意味とEAA全文を掲載しているサイト

を尋ねたのですが、§742.14に示す通りと言うだけです。それ以上問い合わせる

だけの英作文能力がないので諦めました。

しかし、この翻訳をして最新技術に触れることができ、英文解釈の力も少しづつ

向上していると思うので続けるつもりです。さらに、カテゴリー部分はEARの

大切な要素なので、その内、カテゴリー0,1の翻訳にも挑戦しようと考えてい

ます。



(テーマ)

1.ハイフンで連結された複合語の意味

2.with が手段を示さない場合

3.その他カテゴリー8で判読に苦労した語句

4.9mt:9 メートルトンとは何か

5.dimensions of the outside edges ....の訳し方

6.not otherwise controlled inの意味

7.その他カテゴリー9で判読に苦労した構文



(解説)

1.ハイフンで連結された複合語

  1)8A002.d.2 のrange-gated

  2)8A002.o.1/.o.2 のsuper/base-ventilated

  このような複合語はその文中若しくは当該分野に限り使用され、一般の辞書

  に載っていない場合が多いのです。

  そこで上記の語句をキーとするGoogle検索により関連資料を集め、

  そこから意味を把握するようにしました。

  1)はレーザーを使って、投影したりカメラに取り込んだりする対象範囲を絞

   り込むものと分かったので、”範囲囲い込み式”と訳しました。

  2)は高速艇用プロペラの換気に関するものであって、高速運航時にsuper/

      通常運航時にbase 換気するものだから、それぞれ”超換気式/通常換気式”

   と訳しました。

2.with が手段を示さない場合

  8A002.i.に modified for use with submersible vehicles, ....とあり

  ます。

  このwith が手段を表わすとすれば、潜水艇を道具として使用することにな

  り意味が取れなくなります。そこでこのwith は手段ではなく、共にを意味

  するものと考え”潜水艇に搭載できるように修正された”と訳しました。 

3.その他カテゴリー8で苦労した語句

  1)8A002.j のAir independent power system

  2)8B001 headingの100dB(reference 1μPa,1Hz)

  ここで、1)ではair independentとは何か、2)では括弧の中のカンマの意味

  を理解するのに苦労しました。

  1)は輸出令12項を参照し、”大気から遮断された状態で使用できる動力シ

   ステム”と訳しました。

  2)は6A001.a.1.b.2の224dB(reference 1μPa at 1m)との対照から、このカ

   ンマによって区切られたものは1μPaと1Hzではなかろうかと考えました。

   しかし、それは間違いであって本当はreference 1μPaと1Hzでした。そこ

   で、”100dB(基準音圧が 1μPa及び周波数幅が1Hzにおいて)”と訳しま

   した。

4.9 メートルトンとは何か

  9A990.b の9 mt(20,000 lbs)は、括弧内の単位がポンドなのでmtも重量を表

  わす単位だろうと思えます。9xxxトン=20,000ポンドとなるxxxはどう訳した

  ら良いか分かりませんでした。重量の単位トンについて調べてみると、米ト

  ン、英トン、メートルトンがあり、米トンの1トンは2,000 ポンドで約907

  キログラム(mg)です。従って、20,000ポンドは10米トンですが、メートル

  トンでは9.07トンになります。ですから、xxxトンはメートルトンと訳せば

  良いことが分かります。

  勿論この規定では括弧外の9 メートルトンが優先され、括弧内の値は参考値

  となります。

5.dimensions of the outside edges of the cylinder heads

  これは9E003.e.3 Technical Noteの width b.にあります。

  dimension は画像や立体などのデータについて、各次元(幅、奥行き、高さ)

  ごとの寸法のことを言います。直訳すればシリンダーヘッドの外縁の寸法と

  なります。しかし、これではヘッドの外縁のどこからどこまでの寸法か明確

  になっていません。それを”シリンダーヘッドの一方の外縁から反対側の外

  縁までの距離”と訳すことにより明確にしています。原文でedges となって

  いることがこの訳を示唆しているように思います。

6.not otherwise controlled in 9E003.a.1 ....(9E003.h)

  否定文の意味を理解するのは難しいです。これを翻訳する際、not「ない」

  の力点をどこに置くかによって意味が違ってくるように思います。逆説的

  に言えば、notの原文における力点の置き方は一つに定まっているはずです。

  それはnotのすぐ後にある語だと私は思います。この場合はotherwise です。

  即ち、他に「ない」と訳せば良いのです。そうするとcontrolled 以下の句

  は肯定文となり”9E003.a.1....に規制されるものの他に「ない」”となり

  ます。もし、誤って力点をcontrolled の方に置くと”9E003.a.1....に規制

  され「ない」ものの他に”となり、大変意味が取り難くなります。

  (もし、誤ってこれを9E003.a.1....に規制されないものと訳せば、全く違

   った意味になると共に、EAR99まで含む不合理な規定になります。)

  その確認をするのには、辞書等で関連する例文を見るのが良い方法です。

  通常の辞書では例文も少ないのですが、スペースアルクのウェブサイトにあ

  る【英辞郎】は例文が多く便利です。not otherwise で引いた結果の一部を

  次に示します。

     ・if not otherwise specified 

      特に断りがなければ、特記{とっき}されない限り 

     ・not otherwise provided for 

      《契約書》別段の定めがなければ◆【略】NOP 

     ・if you are not otherwise engaged 

      他に用がなければ

  **他に「ない」と訳しても、上記文例と同じ意味になりますから、問題な

    いことが確認されました。

7.その他カテゴリー9で苦労した構文

  1)9A004.b のSpecific items as may be determined to be.....

  2)9A012.b out of the direct vision range involving a human operator

  3)9A120.b  Note2. の,that lack an aerosol dispending system

  ここでは各文中の鍵となる要点と訳文について述べます。

  1)のas は関係代名詞であつて、先行詞にsuch ,sameを含まないが〜のよう

   なと訳しました。

   →....であることが決定されているような特定の品目

  2)は輸出令4項省令3条一号のロの規定を参照し、次の如く訳しました。

   →視認できる範囲を超えて

   **ここでthe direct vision range は後続するoperator が直接目で見

    ることのできる範囲を表わしています。つまり人の目で直接見ることの

    できる範囲です。

  3)の,thatは関係代名詞として通常制限的用法に使用されますが、まれに

   which又はwhoの代用として非制限的用法に用いられた例で、次の如く訳し

   ました。

   →そしてこれはエアゾールが定量噴霧できるシステムを持たないが、

   **この部分の訳について輸出令4項の規定を参照しました。

                                以上





[改訂来歴]

 REV1 '09.08.03  7項2)の’13項’→’4項省令3条一号のロ’に訂正した。