『英文翻訳のつぼ』 2003.07.12 私は趣味で米国の輸出管理規則(EAR)の翻訳を続けている。通商管理リス ト(CCL)のカテゴリー2,3,4,5を翻訳し、私のホームページに掲載し ている。少しばかりの経験で「つぼ」を教えますと言うのも、おこがましいこと ではあるが、お役に立つものと勝手に思っているのでその二三を紹介する。 「翻訳のつぼ」 (1)and,ORの省略 同等の語句が三つ以上あると、通常は各語句の間をコンマで区切り、 最後の語句の前のみand,orを置く。 (2)as+過去分詞 及び 分詞句 asは過去分詞の意味を制限する副詞であって、先行する名詞や代名 詞を修飾する。通常、’・・・するところの’と訳す。 分詞句とは、分詞及び補語が修飾語の組合せで、形容詞あるいは absolute phrase と呼ばれる独立文の一要素として使われる。分詞は 主に、現在分詞、過去分詞と完了分詞が使われ、先行する名詞句を修 飾する。 (3)以上/以下、超/未満 以上;〜 or more, 以下;〜 or less 超;exceeding, 未満;below (4)慣用句(idiom) 慣用句として使われている場合は、その意味を優先する。 様々な慣用句があるがその一例を次に示す。 in and of itself;それ自体は 「例文及び説明」 例文は主にCCL、カテゴリー2の中から抽出した。また、訳例は私のホーム ページの訳を引用した。例文の引用箇所を( )内に示した。 (1)and,ORの省略 例文1 Slurry Deposition is a surface modification coating or overlay coating process wherein a metallic or ceramic powder with an organic binder is suspended in a liquid and is applied to a substrate by either spraying, dipping or painting, subsequent air or oven drying, and heat treatment to obtain the desired coating. (ECCN 2E003.f.のTechnical Note to Table on Deposition Techniques;e.) 説明1 本文はSlurry Deposition(スラリー析出法)を主語とする独立文節と wherein 以下の従文節から構成される。従文節の主語はa metallic or ceramic powder with an organic binder(有機接着剤付き金属若しくは セラミックの粉末)である。 アンダーライン部のコンマを、上記つぼ(1)に従いand,orに置き直すと、 次の3つの語句から成立していることが分かる。 a: a substrate by either spraying or dipping or painting b: and subsequent air or oven drying c: and heat treatment to obtain the desired coating. a,b,c のいずれもapplied to の目的語になっており、それらを等位接続 詞 and で結んだものである。従って、アンダーライン部を含む文節の訳 は、’有機接着剤付き金属若しくはセラミックの粉末は a及びb及びcに 適用される’となる。 なお、either は二つの要素について用いるのが原則であるが、上記例文 のようにときとして三つ以上のこともある。 訳例1 スラリー析出法は、表面修正コーティング又は上張りコーティング法であ って、液体中に浮かべた有機接着剤付き金属若しくはセラミックの粉末を、 噴霧、浸漬又は刷け塗りして基材に付け、それに続けて空気又はオーブン で乾燥させ、熱処理をして所望のコーティング膜を得るものである。 例文2 2D991 "Software" specially designed for the "development", "production", or "use" of equipment controlled by 2B991, 2B993, or 2B996, 2B997, and 2B998.(2D991 heading) 説明2 ここで、コンマを上記つぼ(1)に従いand,orに置き直して見ると、等位 接続詞 and で結ばれる同等の語句は次の3つである。 a: equipment.... b: 2B997 c: 2B998 即ち、2D991の規制対象項目は、a及びb及びc の”開発”又は”生産”又 は”使用”のために、特別に設計された”ソフトウェア”である。 ここで、b,c は aと異なり2B997,2B998 の対象項目(規制品目以外を含む) の開発等のソフトウェアが対象項目となる点に注意しなければならない。 訳例2 2B991,2B993,又は2B996で規制される装置、及び2B997,及び2B998の”開発”、 ”生産”又は”使用”のために特別に設計された”ソフトウェア” (2)as+過去分詞 例文1 Technical data consisting of process methods or parameters as listed below used to control: (ECCN 2E003.b.2.) 説明1 アンダーライン部は、これに先行するprocess methods or parameters を修飾する分詞句であって、’下に掲載し、・・・を制御するために使用 されるところの’処理方法又は要因と訳す。・・・部は、例文には掲載さ れていないが、ECCN 2E003 の本文にあるコロンに続くb.2.a. ,b.2.b. ,b.2.c. ,b.2.d. の4項目を示す。 訳例1 金属の加工を行うための技術データーであって、下記のb.2.a〜.dを制御 するために使用されるところの処理方法又は要因からなるもの。 例文2 To the extent restrictions would be permitted under section 5(m) of the Export Administration Act of 1979, as amended(EAA), or section 203(b)(2) of the International Emergency Economic Powers Act; (§746.2(b)(1)(@)) 説明2 アンダーライン部は、独立した分詞句であって’改正されたところのもの’ と訳す。これは先行するthe Export Administration Act of 1979 の補足 説明として用いられている。 訳例2 1979年の輸出管理法(EAA)の5(m)項、改正があれば改正後のもの、 又は国際的緊急事態における経済権限法の203(b)(2)に基づき許可される 範囲内のものを除く。 例文3 2B104 "Isostatic presses", other than those controlled by 2B004, having all of the following characteristics.(2B104 heading) 説明3 アンダーライン部は、分詞句であって前の句には過去分詞が、後の句には 現在分詞が用いられている。 分詞は、動詞の一形態であって名詞や代名詞を修飾する形容詞的役割を果 たすものである。それを動詞的形容詞とも呼び、動詞としての機能は損な われていないので、直接目的語や間接目的語がくることもある。 しかし、一般の形容詞は修飾する名詞や代名詞の前にくるが、分詞はその 後にくる特徴がある。 前のアンダーライン部は、先行する"Isostatic presses"の補足説明であり、 後の方は、先行する二つの句を修飾する。 訳例3 2B004で規制されるもの以外の”アイソスタチックプレス”であって、 下記の全ての特性を有するもの。 (3)以上/以下、超/未満 例文及び訳例 Having two or more rotary axes ...(2B001.e.2.) 回転軸の数が2以上のものであって、・・・・ Induction coils 600 mm or less in diameter...(2B226.a.2.) 直径が600ミリメートル以下の誘導コイルを有するもの ...equal to or less than 6 μm along any linear axis (2B201.a.1.) 如何なる直線軸に沿っても・・・が0.006ミリメートル以下のもの A maximum working pressure exceeding 207 MPa...(2B004.b.1.) 最大動作圧力が207メガパスカルを超えるもの Total harmonic distortion below 10% (3A225.c.) 出力電圧の高調波歪率が10%未満のもの Alloys with more than 25% nickel and 20% chromium by weight (2B350.b.1) 重量比で25%を超えるニッケルと20%を超えるクロミウムの合金 Mass capability of from 0.9 to 23 kg... (2B229.b.2.) 重量が0.9キログラム以上23キログラム以下の・・・ A volume of between 150 p3 and 8,000 p3... (2A225.a.1.) 容量が150立方p超 8,000立方p未満であって、・・・ ...(equal or less than 10 kPa measured above and within 300 mm of the gun nozzle exit)... (2B005.d.1.) (ノズル出口から300ミリメートル以内の測定値が10キロパスカル以下) ...,capable of vibrating a system at 10 g RMS or more over the entire range 20 Hz to 2,000 Hz... (2B116.a.) ・・・20 Hz超 2,000 Hz未満の周波数範囲で加速度の実効値が 10 g以上 の振動をシステムに与え・・・ 上記の他に、above, greater than, 等があるが、要は境界値を含むか否 かを明確にすることである。 (4)慣用句 例文1 ..... Acceptable evidence indicating possible foreign availability is not limited to these examples, nor is any of these examples, usually, in and of itself, necessarily sufficient to meet a foreign availability criterion. (Supplement No.1 to Part 768-page1,heading) 説明1 アンダーライン部は慣用句であって’それ自体は’を意味する。 nor の導く節[文]では「nor + 動詞 + 主語」の語順となる。 訳例1 海外利用の可能性のある受け入れられる証拠は、これらの例に限定される ことなく、またこれら例のどれか一つだけでは、通常、それだけでは、海 外利用基準を満たすのに充分ではない。 以上 「追加」 (1)OF 〜 AND OF − (2003.10.29) 例文(1) Obtaining stipulations of fact and of documents ... (EAR §766.12(a)(3)) 説明(1) アンダーライン部は二つの名詞の前に、それぞれ of を付すことによっ て”実際の及び証拠資料の”の如く、二つの名詞の対比を強調する作用 を有する。 訳例(1) ・・・、実際の及び証拠資料の規定を取得すること