著作権法で保護されるもの         2000.11.16

      



  インターネットの普及、或いは出版手段の大衆化によって著作を仕事としない素人の

 著作物が公衆に公開される機会が多くなった。これが家庭内或いは限られた親しい友人

 間で公開、利用されるのならば著作権法上何ら問題を生ずることはない。しかし、これ

 がホームページに掲載されインターネットを通じて公衆に公開されるような場合には、

 それとは知らずに他人の著作権を侵害し損害賠償を要求されることも起こり得る。

 ここでは、著作権侵害を起こさないために「著作権で保護されるもの」が何かを調査し

 明らかにする。

 但し、以下の調査、考察、検討及び結論は私の個人的見解であり、これに基づく一切の

 結果等に私は責任を負えませんのでご承知おき下さい。 



 1.調査の動機

   私のホームページは著作権侵害を起こすことのないよう配慮し、輸出管理をテーマ

  にした。それはこの調査をする前に決めたことであるが、輸出関連法令の紹介、解釈

  等には特別な許可等を必要としないと考えたからである。

  しかし、前記に加え通関士試験のポイントを独自にまとめホームページに掲載せんと

  した時、それらを作成する際に法令条文及び解説以外の諸々の資料を参考にしている

  ことに気付いた。ところが、作成した資料は法令の適用・解釈に関連するものである

  から、表現方法は多少違っても内容は参考資料と同じにならざるを得ないことが分か

  った。この場合、如何にして著作権法上の問題を生じないようにできるか調査する。

 

  

 2.具体的な調査項目及び参考資料

  (1)著作物の範囲

    「著作権法で保護されるもの」の範囲

  (2)著作者の権利

     著作者人格権/著作(財産)権 

  (3)著作権の制限

     保護期間/私的使用/引用

  (4)権利侵害

     権利侵害に対する措置

  [参考資料]

     千野直邦、尾中普子著:著作権法の解説;一橋出版、2000.3.1 

 

  

 3.調査結果



  3.1著作物と保護の対象範囲

   ◆著作権法

   【目的】

     第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し

         著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の

         公平な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化

         の発展に寄与することを目的とする。

   【定義】

     第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定め

         るところによる。

      一 著作物 思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、

            美術又は音楽の範囲に属するものをいう。

   【著作物の例示】

     第10条 この法律にいう著作物を例示すると、おおむね次のとおりである。

      一 小説、脚本、論文、講演その他の言語の著作物

      二 音楽の著作物

      三 舞踏又は無言劇の著作物

      四 絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物

      五 建築の著作物

      六 地図又は学術的な性質を有する図画、図表、模型その他の図形の著作物

      七 映画の著作物

      八 写真の著作物

      九 プログラムの著作物

   【保護を受ける著作物】

     第六条 著作物は、次の各号のいずれかに該当するものに限り、この法律によ

         る保護を受ける。

      一 日本国民(わが国の法令に基づいて設立された法人及び国内に主たる

        事務所を有する法人を含む。以下同じ。)の著作物

      二 最初に国内において発行された著作物(最初にこの法律の施行地以外に

        おいて発行されたが、その発行の日から三十日以内に国内において発行

        されたものを含む。)

      三 前二号に掲げるもののほか、条約によりわが国が保護の義務を負う

        著作物

   <非保護著作物>

   【著作物の例示】

     第10条 

      2 事実の伝達にすぎない雑報及び時事の報道は、前項第一号に掲げる著作

        物に該当しない。

   【権利の目的とならない著作物】

     第13条 次の各号のいずれかに該当する著作物は、この章の規定による権利

          の目的となることができない。

      一 憲法その他の法令

      二 国又は地方公共団体の機関が発する告示、訓令、通達その他これらに類

        するもの

      三 裁判所の判決、決定、命令及び審判並びに行政庁の裁決及び決定で裁判

        に準ずる手続により行われるもの

      四 前三号に掲げるものの翻訳物及び編集物で、国又は地方公共団体の機関

        が作成するもの

   ★参考資料の解説より    

    (1)列車時刻表等のようなたんなる事実の羅列にすぎないものはもとより、

       産業上の範囲に属する技術的、実用的な作品も著作物とはなりえない。

    (2)「創作的」に表現したものについて。これは厳密な意味での独創性を

       いうのではなく、作品に著作者の「個性」が表現されていれば、創作性

       を認めてもよいと解されている。

    (3)著作物は、思想や感情を外部に「表現」したものでなければならない。

       アイデアや理論などの思想感情自体は保護の対象にはならない。

    (4)記者の思想・感情をまじえた雑報および時事の報道の多くは保護される言

       語の著作物に該当するといってよいが、人事往来等のたんなる事実の伝達

       にすぎない雑報や報道記事は、もともと思想・感情の創作的表現といえる

       だけの内容を備えていないので、それ自体が保護の対象となるべき著作物

       性を有しないものといえる。

    (5)法令、通達等公共に広く開放して自由に利用されるべき性質の著作物につ

       き、これを著作権法の保護の対象外としたものである。

              国等が作成する法令等の翻訳物、編集物を新たに権利の目的とならない著

       作物とした・・・。

       法令、通達等の翻訳物・編集物であっても、私人の作成になるものについ

       ては、保護の対象となる。

    (6)著作権法(以下法と呼ぶ)第一条目的から公正な利用について

       著作者の権利保護を第一としつつも、他面、著作権に内在する制約として、

       その保護には一定の限界がある。すなわち、著作者は著作物を作成する際

       に先人の文化遺産から何らかの形で影響を受けているのであり、著作物は

       文化の享受者である国民の共有財産としての側面も有していることから、

       一般公衆による一定限度内での著作物の利用は自由とされる。・・・

       これらを具体化したものとして、「著作権の制限規定」(法30条〜50条)、

       「保護期間」(法51条〜58条)等・・・・の制約も規定されている。

    (7)特許権、実用新案権、意匠権、商標権などを総称する工業所有権は競業的

       色彩が特に強く、主として物質文化の発展に寄与するものであるのに対し、

       著作権は著作者の人格的利益とも関連し、主として精神文化の発展に寄与

       するものである。

  [考察]

   (1)列車時刻表は著作物にならないか。

      上記解説に、列車時刻表はたんなる事実の羅列にすぎないものであり「著作

      物とはなりえない。」と記載されており、著作物にならないことは明らかで

      ある。しかし、時刻表の中には索引地図等著作物と考えられるものが含まれ

      ており冊子全体が著作物でないとは思えない。

      例えば、日本交通公社発行の時刻表をそのまま複製した海賊版を出版すれば

      何らかの法的措置がとられるものと思う。

      なお、前記交通公社時刻表(1994.5)には禁無断転載・複製と記載されており、

      著作物とはなりえない列車時刻表の部分でもそのまま無断で転載・複製して

      はならない。但し、その事実だけを、例えば各駅の到着時刻等をこの時刻表

      から見つけ、転載とならない範囲で自分の作品中に記載しても問題はないと

      考える。

      (転載:既刊の印刷物の文章・写真などを他の印刷物に移し載せること)

   (2)法令集は保護の対象とならない著作物か。

      法第13条第一項から、法令は保護の対象とならない著作物に該当する。

      しかし、法令集(国等が作成したものを除く)はこれら非保護著作物を著者

      の思想・感情をまじえて編集した言語の著作物と考えられるから保護の対象

      になるものと思う。これは前記解説(4)で非保護著作物である雑報および

      時事の報道でも記者の思想・感情をまじえたものの多くは保護される言語の

      著作物に該当するとしているのと同様である。

   (3)歴史年表や物性表などの事実の羅列にすぎないものは非保護著作物か。      

      著者の思想・感情が編集を通して、創作的に表現されていると考えられるか

      らこれらは著作物と見なされる。また、これらは法第10条2項、第13条

      に該当しないから非保護著作物ではなく、保護の対象物になると思う。

      しかし、前記解説(6)に記載のごとく著者は国民共有の財産でもあるこれ

      らの事実を基に作成しており、又新発見を含んでいたとしてもそれらを著者

      が専有(排他的利用)することはできない。

   (4)著作権法で保護されるものは何か。

      それらは次項以降の著作者の権利、権利の制限の調査により明らかになるで

      あろう。但し、上記考察から解かるように保護対象著作物であっても、そこ

      に含まれる具体的内容や事実、それらから派生する具体的なものが著作権に

      よって保護されることはなかろう。ここで、具体的とは精神的なものではな

      い物質的なものを指す。

      一方、工業所有権の場合は記載された内容や事実が権利の対象となる。

      もし複数の著者による同一の内容及び事実を基に作成された著作物があった

      としたら、当然そこに記載される内容や事実は同一であるが、それぞれ創作

      的に表現されていれば問題はないことになる。例えば、歴史年表だとすれば、

      年代とその時の出来事が全く同じ表現だったとしても、それぞれに創作性が

      認められれば問題ない。保護の対象は著作物そのものである。



  3.2著作者の権利

     <著作者人格権と著作(財産)権> 

   ◆著作権法

   【著作者の権利】

     第17条 著作者は、次条第一項、第19条第一項及び第20条第一項に規定

          する権利(以下「著作者人格権」という。)並びに第21条から第

          28条までに規定する権利(以下「著作権」という。)を享有する。

      2 著作者人格権及び著作権の享有には、いかなる方式の履行をも要しない。

   ★参考資料の解説より 

    (1)著作者人格権は、著作者自身の人格的利益の保護を目的とするものである

       から、財産権たる著作権とはその性質を異にし、一身専属性と不可譲渡性

       とを有する。・・・著作者人格権として公表権(法第18条一項)、氏名

       表示権(法第19条一項)、同一性保持権(法第20条一項)の三つを定

       めているが、それぞれの権利について推定規定や特例を設けている。

    (2)著作権の具体的な内容として著作権法が明示する権利の種類は、次に掲げ

       るものである。

        すなわち、@複製権(21条)A上演権・演奏権(22条)B上映権

       (22条の二)C公衆送信権(23条)D口述権(24条)E展示権

       (25条)F頒布権(26条)G譲渡権(26条の二)H貸与権(26条

        の三)I翻訳権・翻案権等(27条)J二次的著作物の利用に関する原

       著者の権利(28条)に限られる。       

  [考察]

   (1)著作権法で保護されるものは何か。

      著作権法で保護されるのは、法第17条に示す著作者の権利等である。

      著作者の権利の内、財産権たる著作権については、前記解説(2)の複製権

      等である。即ち、次項の著作権の制限に該当する場合を除き、他人の著作物

      を無断で複製、上演等することは禁じられている。

   (2)部分的な複製(自作品への転載を含む)でも権利を侵害するか。

      著作権の制限に該当しない利用方法で、他人の著作物の全部或いは部分を複

      製(自作品への転載を含む)すれば権利侵害になるはずである。      

      しかし、3.1考察(4)で述べたように多くの著作物には同じ内容や事実

      が記載されており、部分的に見ると全く同一の表現となっていることもある。

      これが即、著作権侵害問題になる訳はなく、その一致が著者の創作性に係る

      部分である時のみ問題になるものと考える。別の言い方をすれば、創作性に

      係らない部分の複製等は権利侵害にならないのではないかと思う。しかし、

      多くの著作物には禁無断転載・複製と記載されており、その効力その他問題

      についてさらに充分な検討を行い、権利侵害にならないことを確認した後で

      なければこれを(複製等)を行ってはならない。

   

  3.3著作権の制限

     <保護期間/私的使用/引用>     

   ◆著作権法

   【保護期間の原則】

     第51条 著作権の存続期間は、著作物の創作の時に始まる。

      2 著作権は、この節に別段の定めがある場合を除き、著作者の死後(共同

        著作物にあっては、最後に死亡した著作者の死後。次条第一項において

        同じ。)五十年を経過するまでの間、存続する。

   【私的使用のための複製】

     第30条 著作権の目的となっている著作物(以下この款において単に「著作

          物」という。)は、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られ

          た範囲内において使用すること(以下「私的使用」という。)を

          目的とするときは、次に掲げる場合を除き、その使用する者が複製

          することができる。

       (以下省略)

   【引用】

     第32条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合に

          おいて、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報

          道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるもの

          でなければならない。

   [用語解説]

     引用 紹介、参照、論評などのために、自分の著作物の中に他人の著作物の

        一部を抜き出して採録し、自分の説のよりどころとすることをいう。 



  3.4権利侵害

     <権利侵害に対する措置>

   ★参考資料の解説より 

    (1)ここでの権利侵害は、権原なしに権利の目的物を利用し、他人の権利を害

       することをいう。すなわち、著作権者等の許諾なしに利用することである。

    (2)他人の著作物の全部または一部を自己の著作物として発表する場合、これ

       は著作物の利用について著作権者の許諾を受けていないこと、および他人

       の著作物を自己の著作物として発表することから違法性が強く、侵害の中

       で最も悪質とされている。ここで盗作か独自の著作物かの区別は、総合的

       に判断しなければならない。

    (3)著作権法で定められている権利等を侵害した者に対しては、同法第119

       条ないし124条で刑事上の制裁を科している。・・・刑法では原則とし

       て故意犯、例外として過失犯が処罰されるが、著作権法では故意犯のみが

       処罰され、過失犯、未遂犯は存在しない。

    (4)損害賠償請求権 故意または過失によって著作権、著作者人格権などを侵

       害した者は、一般不法行為としてこれによって生じた損害を賠償しなけれ

       ばならない(民709条)。



  

 4.まとめ及び対応策

    著作権法で保護されるのは、法第17条の著作者の権利等である。

   著作者の権利には、著作者人格権と著作権がある。そして著作者の権利は創作と同

   時に発生し、登録などの形式を必要としない(法17条2項)。

   保護を受ける著作物については、法第2,6,10条の規定がある。ここで、著作

   物は、思想又は感情を創作的に表現したものとの規定があり、単なる事実の羅列は

   著作物に該当しないとされている。

   このことから、3.2考察(2)で示したように、著作物の中の創作性に係らない

   部分の複製等(自作品への転載を含む)は権利侵害にならないのではないかと思わ

   れる。しかし、多くの著作物には禁無断転載・複製と記載されており、その効力そ

   の他問題についてさらに充分な検討を行い、権利侵害にならないことを確認した後

   でなければこれを(複製等)を行ってはならない。

   但し、その部分が法令等の非保護著作物の一部である、或いは既に保護期間を経過

   しているものであることが明らかな場合には、これを行っても権利侵害にはならな

   いのは当然である。

   通常、創作は多くの既刊著作物を参照して行われるが、著作権の侵害にならないよ

   う、引用する場合は出所を明示する、特に創作性のある部分は無断転載とならない

   よう細心の注意が必要である。

   なお、学術書では引用がない場合にも参考資料名を明示するのが一般的であるが、

   本件のような実用書では参考資料名を明記しないのが普通のようである。

   特別根拠のあるわけではないが、実用書の分野では同一テーマなら殆ど同じ内容、

   表現になってしまうので、混乱を回避するために明記しないのではないかと思う。

   以上、特別な対応策は考えられないので、前記の如く権利侵害にならぬよう常に

   細心の注意を払って資料を作成することが重要である。

                                     以上