烏瓜歌集 「まえがき」 この歌集は私達(ニックネーム:おかきと羊羹、以降OK,YKと略称する。) が平成六年末から日記代わりに作ってきたものを纏めたものです。短歌が中心で すが、その他、俳句或いは川柳ありでジャンルは特定しておりません。 ところで纏めるに当たり最も頭を悩ませたのはどのように分類すべきかと言うこ とでした。本の形にすれば、分類し目次を付けるのが当たり前と考えておりまし た。 しかし、日々の暮らしの中で心に残ったこと、感じたことを単に書き残して置き たいと思い作ってきたものですから、歌の対象やテーマは発散し纏まりがありま せん。そこで、考え直して見ると元々日記代わりであると言うことは、その作成 日にも大きな意味がある訳ですから敢えて分類することなく時系列に掲載するこ とにしました。但し、それだけでは検索が困難で不便なものですから、途中にそ の時期の大きなイベントを題目にしてはさみ込むことにしました。 さて、歌の上手下手については読んで頂ければすぐお分かりになると思います。 OKは一時期短歌の同好会に入っており、そのころ作ったものも入っていますが、 YKのものは全くの自己流です。 私達は上手な歌を世に出して認められたいという程の自信などありません。 しかしながら、私達と同じこの時代に暮らす読者の中には多少なりとも共感を覚 えて下さる方があるのではないかと思い掲載する次第です。 平成11年4月25日、 YK (ホームページ掲載に当たり:2004.6.13) 本歌集は5年前に自宅のパソコンを用いて、私製本の形で30部程度作成し知 人等に差し上げたものを、今回HP掲載用に縦書きから横書きに変更する等一部 修正したものです。「まえがき」及び「あとがき」は私製本と日付は変えていま せんが、ホームページの性格上から不特定の読者を対象とするよう修正しており ます。なお、目次との対応を取るため各句には掲載順に一貫番号を付け、それを 句の後に表示しました。 「目 次」 烏 瓜 (1994.11〜95.01) 1 阪神大震災 (1995.01〜95.04) 19 きんらんの花 (1995.05〜95.07) 35 かんざし (1995.08〜95.12) 43 鬼は外 (1996.01〜96.03) 55 母の帯 (1996.04〜96.06) 73 切り花 (1996.07〜97.01) 83 弟 (1997.01〜99.01) 105 亡き母 (1999.01〜99.02) 117 つらら (1999.02〜99.04) 134 (烏 瓜) すすき野の子らの白帽向かいくる深まりゆきたる戦場ケ原 1 94.11.17、OK 水やりてにほひ立ち出づハーブの葉友はいかにとふと思われぬ 2 94.11.17、OK さわし柿流しでかじる大年増 3 94.11.18、OK いにしえ 古文書を夫と習う昼下がり古偲び筆跡辿る 4 94.11.19、OK このごろはようよう寒くなりぬれば春こそ待たれる雪囲いして 5 94.11.23、YK すすき 年休を採りて妻と散策す烏瓜薄集めて活けし 6 94.11.28、YK あにら フルムーンで兄夫婦来りて話すうち三十年前なる母の心知る 7 94.11.30、YK 秋空に兄と登りし展望台相模野の果て富士絵より高し 8 94.12.01、YK おの トマホーク手投げ斧成る赤い菊似ても似つかぬ愛らしさ 9 94.12.04、OK 食卓に赤き小菊一輪その名はおかし国のトマホーク 10 94.12.04、YK びより 冬日和犬の背中の暖かさ 11 94.12.09、OK 日なたぼこ犬の背中の暖かさ 12 94.12.11、OK 義母を看る友の涙見るたびにわが非力さを思いしるなり 13 94.12.10、OK これを機に骨董漁り終えんとすわが心中の醜さを見ゆ 14 94.12.11、OK 少しだけ慣れしところで指を切る単身赴任の我身なりけり 15 94.12.22、YK 間断なく入れ替わりし靴の音静かに聞く本社待合室 16 94.12.22、YK おだやかに年の初めを祝いけり庭の臘梅盛んに咲きぬ 17 95.01.02、OK 年毎に親離れせし息子らと今年も囲む家庭マージャン 18 95.01.03、YK (阪神大震災) 寒の入り犬の飲み水凍りけり 19 95.01.06、OK 此頃の知識人達嘆かわし人生真理臆して語らず 20 95.01.10、YK 冬晴れて強風の空雲が飛ぶ友の病もそのごとく去れ 21 95.01.27、OK 冬空に人知を超えし大震災虚しく聞こゆ総理の答弁 22 95.01.29、YK ガジュマロのひとひらの苗年越しぬ色濃くつややかに葉を増して 23 95.02.07、OK 折節に求めし苗木広縁に新芽若葉の増えしと言う妻 24 95.02.22、YK 珍しき鳥の声音に見上げれば春を告げなむ四分咲の梅 25 95.02.28、YK 田を渡る風に春は潜むともなお残れる頂きの雪 26 95.03.01、YK 土起こし畝を作りし田圃にもまだまだ認めぬ苗や水音 27 95.03.02、YK 大山も花に霞みし桜土手 28 95.03.03、YK 朝空に尾根を浮かせて春の雪 29 95.03.07、YK ついば やけ 乾田に鳥のつがい啄めば自棄鳴き止めぬ電線の上 30 95.03.08、YK 仕事終えビルを出れば目に染みるこぶしの花は今盛りなり 31 95.03.31、YK 降り積もる花びら増して移ろえり昔も今も同じ此の頃 32 95.04.14、YK 花吹雪犬の鼻先にへばりつき 33 95.04.19、OK めたて うづきあめ 新緑の芽立うながす卯月雨物憂き心にしっとりと降る 34 95.04.19、OK (きんらんの花) 待ち待ちて五月の光を受け止める丸く小さなきんらんの花 35 95.05.03、OK みなも 通勤路見慣れし乾田水満ちて苗青くそよぎ水面も揺れし 36 95.06.05、YK 涙にて別れを告げる友の身に幸多かれと祈る毎日 37 95.06.07、OK いくたび 帰り際友に持たせる山椒ばらあと幾度かこのなごむ時 38 95.06.07、OK 水路にも田にも水満ちて苗青く田植え機に乗る農夫輝く 39 95.06.08、YK 紫陽花の向こうに見えし青苗に注ぐ水路の水音高し 40 95.06.28、YK 甘露梅七年ぶりに割る手許友のご教示体で覚ゆ 41 95.07.05、OK 外は雨一人静かに梅仕込む去年の梅はいい塩梅 42 95.07.05、OK (かんざし) 蝉しぐれ圧力鍋とまちがえり 43 95.08.08、OK この暑さ紳士淑女もなかりけり 44 95.08.24、OK 処暑や猛暑止まねど青田には秋のきざしの稲穂隠れ見ゆ 45 95.08.26、YK 丹沢の尾根を縁どる夕日かな 46 95.08.31、YK とき 秋深し刈り入れ急ぐ朝空に白鳥舞ひて季節は移りぬ 47 95.11.08、YK 故郷の路地を歩けば懐かしき幼き頃の友の姓見ゆ 48 95.12.14、YK 久々に老母囲みて会食す亡き父のこと話してつきず 49 95.12.15、YK 美しき江戸のかんざし手にとりて思いを馳せし愛でた人々 50 95.12.21、OK 年の瀬に妻の繕う障子貼り押し葉の形様々によし 51 95.12.19、YK 精巧な江戸のかんざしじっと見る職人の技知る心意気 52 95.12.21、OK お目当ての品を前にて談笑す心ゆらゆら骨董の店 53 95.12.26、OK つごもりて御用納めの夫待つお刺身そえていつもより嬉し 54 95.12.27、OK (鬼は外) むらすずめ着地も一緒向き同じ 55 96.01.08、OK このところテレビに映る震災地ただ懐かしき父母の住む空 56 96.01.16、OK 嫁ぐ前父母に習いし甘酒を今年も作る逸話と共に 57 96.01.17、OK べっこう 大正の鼈甲細工の重兵衛様今私が愛で奉る 58 96.01.18、OK 水やりて今気がつきぬミニ水仙二芽に成りて弥生待ち居る 59 96.01.18、OK 朝起きて雨戸くり開け見る庭の桃の小枝に雪の花咲く 60 96.01.20、OK 犬死にて寂しくなりしわが庭に小鳥来ませと木にりんご刺す 61 96.01.23、OK 今はただ姿のみにて満足す初音聞かせよ庭の鴬 62 96.01.26、OK きょうひとひ 今日一日まめでいること感謝する古い友との語らい持ちて 63 96.01.30、OK ふ 年古りて小声で祓う鬼は外 64 96.02.03、OK 包み持つ明治のグラスワイン満つ独りいる居間深みゆく夜 65 96.02.08、OK 霜降りて薄黄色の田の上に群れ飛ぶ鳩に我を重ねし 66 96.02.09、YK 丹沢の尾根の残雪まだらにて野にそそぐ日に春を憶えぬ 67 96.02.28、YK 丹沢の尾根に雪は残れども野にそそぐ日に春を憶えぬ 68 96.02.28、YK こ 成人の娘の晴れ姿見る夫その親馬鹿に幸せ思う 69 96.03.01、OK あでやかな中振袖で微笑みし門出を祝う二十才の春 70 96.03.02、YK 朝空に頬刺す風は変わらねど鳥の声音ははや春の色 71 96.03.06、YK 今は春姿現わせ初めだか火鉢の底より飛び出でよ 72 96.03.14、OK (母の帯) ぎょいこう 御衣黄という名を持ちしさくら花咲かせて友に見せたし若木 73 96.05.10、OK 浮き草をついーと動かすめだかかな 74 96.05.25、OK 生きている証しとしたし我がキルト今日もひたすら針を運びぬ 75 96.05.25、OK 気持ちよく我を迎えし歌の会今偏屈を切り捨てる時 76 96.06.06、OK 何事も風の吹くまま逆らわずゆったり処してありたきものよ 77 96.06.07、OK 手作りのマーマレードの灰汁をとる我も澄みたし歌詠みゆきて 78 96.06.11、OK ひと 茣座敷きて昔の掻巻ときほぐす縫ひし女我同じ藍に染む 79 96.06.21、OK 盆踊り鐘や太鼓を聞きながら汗ばみ結ぶ若き母の帯 80 96.06.23、OK あかあかと日は燃えゆらぐ日本海しばらく住みし海鳴りの村 81 96.06.24、OK つま 夫恋しそんな歌など詠まざりし我より辛き思い知るから 82 96.06.25、OK (切り花) のびる くこ 誘われて土手の野草を採りに行く野蒜たんぽぽ枸杞からし菜を 83 96.07.05、OK 守りたし青き地球と子供達地球国家が核をなくさむ 84 96.07.09、OK 桃の木を気儘に走るかなへびは時折我を意識し止まる 85 96.07.18、OK あした 明日こそ待つ背の許へ子のもとへ帰るわが身は不自由にして 86 96.08.11、OK にぶたに 二風谷はアイヌの民の祈りの地一つの文化ダム底に消ゆ 87 96.09.03、OK 喜びは思い通りに言い切って歌詠める時ふつふつと湧く 88 96.09.09、OK 秋深しかそけき虫の鳴き声は痛みに耐える我が陰の声 89 96.10.07、OK やうやくに切り花飾るゆとり持つこの幸せを気に留めざりし 90 96.10.09、OK しゃら 夏沙羅を枯木に変えてからみつきつる梅もどきその実色づく 91 96.10.18、OK 三月ぶり右手を使い食事するこのひと箸に万感迫る 92 96.10.18、OK 生きるとは全ての現実受け止めてあるがままなる自分でいること 93 96.11.12、OK し まみどり せい もう春と減りて沈みし雪取ればサット目に染む真緑の生 94 96.11.15、OK いいで 霜月に雷鳴聞けば雪おこし飯豊連峰既に冠雪 95 96.11.15、OK やがてくる厳しき冬にぬくもれる備え忙し北陸の家 96 96.11.17、OK 空晴れて雪掻きをれば我が頭上鈎を作りて白鳥鳴き行く 97 96.11.19、OK ひらひらの感覚好む少女趣味今も引きずり心遊ばす 98 96.11.19、OK こづいいで 五頭飯豊二連峰に守られて瓢湖の白鳥冬日楽しむ 99 96.11.21、OK アルタイの峰々響けホーミーは妙なる調べモンゴルの風 100 96.11.24、OK 美に秀で美に溺れし皇帝の故宮に残せし至宝の無念さ 101 96.11.27、OK クリスマス思い思いのリース下げ子等の喜びドアより伝う 102 96.11.29、OK とちもち 朝市に並ぶ目当ての品々は栃餅岩海苔こごみたらの芽 103 96.12.03、OK つがい 侘び助に目白の番遊び来て白き花びら頭を隠す 104 97.01.07、OK (弟) 大山の西に沈む日尾根黒く山の端染めて千切れ雲浮かぶ 105 97.01.11、YK 門松や守衛の声は高らかに晴れ着も混じる初出勤 106 97.01.13、YK 切り株に霜をまぶして柔らかく朝日にかすむビロードの原 107 97.01.19、YK 如月の光輝やき空冴えて凍てつく道は氷まだらに 108 97.02.06、OK せ 心急き術後の弟見舞う道足早の母追う嫁と姉 109 97.03.05、OK 朝咲きし庭の花々切り集め弟慰さむ母に託せし 110 97.03.13、OK たち 年毎に老いゆく母に兄夫婦の心遣いを見れば嬉しき 111 97.04.06、YK 六月前共に送りしその友を送る心に浸みる蝉の音 112 97.07.24、YK 厳かに祝詞賜わりいや清く家族揃いて往く男坂 113 97.08.19、YK 我等起家三十年、時雖等万人去来、痕跡万様又不等、息齢二十九求妻 114 98.10.27、YK ふるさと 故郷の改札口へと目をやると予測をつけて父待ち居たり 115 98.12.03、OK くまがいそう かんぴ 母ほめし熊谷草がぽつぽつと新芽出したり寒肥施す 116 99.01.10、OK (亡き母) 年老いし母を見舞いに降り立ちぬ故郷寒く小雪舞いける 117 99.01.15、YK ぬ 故郷の義兄を訪ねて迷いける握手をすればたちまち 温くし 118 99.01.16、YK 病院のベットに臥せし我母の手足はやせて起きること難し 119 99.01.16、YK 年老いし母を見舞えば我に問うどなたさんですかお名前をどうぞ 120 99.01.16、YK 瀬戸内の海辺を走るJR四十年前の通学路懐かし 121 99.01.19、YK 還暦を控えて集う同窓会第二の人生思いはさまざま 122 99.01.20、YK 同郷のおのこ営む居酒屋に今年も集う同窓生 123 99.01.20、YK おととし 一昨年の弟見舞いし花活けて歌詠む心又よみがえる 124 99.02.03、OK 愛し子は桜の花の風情もつ桜の色の服を着て笑む 125 99.02.03、OK ひとかぶ 一株が四株になりぬ弁慶草春待つ我の喜びとなり 126 99.02.08、OK 幼き日母と数えしトンネルを一人で数え通夜に赴く 127 99.02.13、YK この寺で父を送りて四半世紀読経届くや柩の母に 128 99.02.14、YK ことば 我が母は十九で嫁して六十七年ここに住みしと聞く通夜の挨拶 129 99.02.15、YK ことさら げったん 亡き母は控えめなれば殊更に月旦なけれど通夜は賑わし 130 99.02.15、YK 一族が集いて行う野辺送り母の亡きあと集うあてなし 131 99.02.15、YK 好物のバナナも入れし我が母の柩は消えて骨となりなむ 132 99.02.15、YK 我が母は花に埋もれて天界へ地上の悩み消え失せて空 133 99.02.15、YK (つらら) さくらがさね 喜寿の母桜襲の色選び望み通りの春を編み込む 134 99.02.17、OK 北陸の雪懐かしみぼたん雪曇るガラスを拭きて眺むる 135 99.02.19、OK あかぎれ まどう 皹も間遠になりぬ春近し 136 99.02.28、OK おやこ 親娘してマニキュアつけて春うらら 137 99.04.05、OK 青山の露店震わせ春の風 138 99.04.06、YK 花誘う森の近くに友臥せし 139 99.04.06、YK 不景気に倦みし人出の春来たる 140 99.04.07、YK 風流や雨傘さして花見かな 141 99.04.07、YK 空中で静止するかや初燕 142 99.04.07、YK 幼な子のつらら隠せし雪の洞 143 99.04.07、YK 地吹雪にハンドル捕られて徹夜かな 144 99.04.08、YK 滑り台垣根を越えてソリ遊び 145 99.04.08、YK くもの巣に桜の花びら吹かれ散る 146 99.04.08、OK 女郎ぐも今日の獲物は桜花 147 99.04.08、OK 「あとがき」 まえがきでも述べた通り、この歌集は私達が日々の暮らしの中で心に残ったこ と、感じたことを書き残して置きたいと思い作ってきたものです。読み返して見 て、下手なりにも作ってきて良かったと思っています。人の記憶は直ぐに変質し 或いは消え去ってしまいがちなものです。 過去の体験、経験は生きてきた証でもあり、また明日に繋がるものと考えていま す。 歌の巧拙は気になりますが、伝統的な定型詩の形を守る中で自分の思いを素直に 表現することのみ考えて作りました。勉強をすれば色々な技法や、知識が得られ ることを知ってはいますが、生来の怠け者故、人真似を避け新鮮さを失わないよ うにする為等々と理屈を付けて自己流を続けています。 どんな文学においても、先ずは作者自身の感動や思索が存在し、次にそれを文字 を用いて表現したいと言う意欲が必要でしょう。 また、作品は個人的な内容であっても、個人の感動や思いが率直に語られている 場合には、読者にもその感動が伝わるものです。 歌の世界においても同じことだと思います。即ち、作者に感動がないか、或いは 為にする表現では読者に伝わらないはずです。高名な歌人であろうと、大家であ ろうと、同じことです。そしてまた、その感動の質を云々すべきではないと思い ます。何故ならば、人間全体を物理的機能面から見れば大差がなく、精神面にお いても同一性が根本をなし、個人差はわずかだと思うからです。そういうことで、 下手なりにも素直に感動を表現するよう努めました。 そして、私達の感動や思いが少しでも読者の方々の共感を得られれば幸いです。 平成11年5月1日。 YK,OK