課税価格の決定の原則

 

 関税定率法第4条に「課税価格の決定の原則」また同法第4条の2から4に特殊な
事情により前記原則によれない場合の課税価格の決定方法が規定されている。
ここでは、原則と特殊な事情のある場合に大別してその要点を述べ、次に注意事項及
び補足を纏めて記載した。


1.課税価格の決定の原則

 1.1 取引価格
   輸入貨物の課税価格は2項の特殊な事情がある場合を除き、原則として下表の
   取引価格とする。

課税価格の決定の原則
原則
(取引価格)

 輸入貨物の課税標準となる価格(以下「課税価格」という。)は、
次項に規定する特殊な事情がある場合を除き、当該輸入貨物に係る
輸入取引がされた時に買手により売手に対し又は売手のために、当
該輸入貨物につき現実に支払われた又は支払われるべき価格に、そ
の含まれていない限度において次に掲げる運賃等(加算要素)の額
を加えた価格(以下「取引価格」という。)とする。

(用語)
 上記の他にここで使用する用語の定義を次に示す。
現実支払価格:輸入取引に際しある輸入貨物につき買手により売手
  に対し又は売手のために行われた又は行われるべき支払いの総
  額を言うものである。
  買手の売手に対する債務の全部又は一部の弁済その他の間接的
  な支払のすべてを含むものであり、また輸出国において輸出の
  際に軽減又は払戻しを受ける関税、その他の課徴金は除かれる。
加算要素:現実支払価格に、その含まれていない限度において加え
  るべき費用。
控除要素:現実支払価格に含めない費用。これが現実支払価格に含
  まれている場合で、かつ、その額が明らかな場合にはこれを控
  除したものが課税価格となる。また、明らかにできない場合に
  はこれらを含んだままの額を現実支払価格とする。
加算要素
(1)輸入港に到着するまでの運送に要する運賃、保険料その他の運送
 関係諸費用
(2)輸入取引に関し、買手が負担する仲介料等の手数料(買付手数料
 を除く)及び容器、包装の費用 
(3)輸入貨物の生産及び輸入取引に関連して、買手より無償で又は値
 引きをして提供された物品又は役務の費用(生産用の材料、部分品
 等、工具・鋳型等、技術料等)
(4)輸入取引の条件として買手が支払う特許権等の無体財産権の費用
 (本邦において複製する権利を除く)
(5)買手による輸入貨物の処分又は使用による収益のうち、売手に帰
 属するもの
控除要素
(1)輸入申告の日以後の国内での輸入貨物の据付、組立等の費用
(2)輸入貨物の国内での運賃、保険料等の運送関係諸費用
(3)本邦での関税その他課徴金
(4)輸入貨物の延払金利

 

2.特殊な事情がある場合の課税価格

 2.1 特殊な事情

   特殊な事情があると認められる場合を次に示す。
  (1)買手による処分又は使用につき制限がある場合
   但し、販売地域の制限及び法令で定める制限は除く。
  (2)輸入貨物の取引価格がその他の取引数量又は取引価格に依存して決定される
   場合。その他課税価格の決定を困難とする条件が付されている場合
  (3)買手による処分又は使用による収益で、直接又は間接に売手に帰属するもの
   とされているものの額が明らかでない場合
  (4)売手と買手との間に特殊関係がある場合であって、取引価格に影響を与えて
   いると認められる場合
    上記の特殊関係とは次のような場合を言う。
   @共同経営者である場合
   Aいずれか一方の者が他方の者の使用者である場合
   B他方の者が議決権を伴う社外株式の総数の5%以上を所有している場合
   Cいずれか一方の者が他方の者を直接又は間接に支配している場合
   D同一の第三者によって、両方の5%以上の株式が直接又は間接に所有され
    ている場合
   E同一の第三者によって、売手及び買手が直接又は間接に支配されている場合
   F売手及び買手が共同して、同一の第三者を支配している場合
   G両者の間に親族関係がある場合

 2.2 同種又は類似の貨物の輸入取引価格による方法
   輸入貨物と同種又は類似の貨物の輸入取引価格(課税価格として採用された
   ものに限る。)があるときは、これを課税価格とする。この場合は次による。
  (1)同種と類似の双方の取引価格があるときは、同種の貨物が優先する。
  (2)同種又は類似の貨物は、生産国が同一のもので、また当該輸入貨物の輸出の
   日又はこれに近い日に本邦向けに輸出されたものに限られる。
  (3)また、その輸入貨物と実質的に同一取引条件であることを原則とし、差異が
   ある場合には、その価格につき必要な調整を行う。

 2.3 国内販売価格からの逆算による方法
   上記2.2の方法によることができない場合で、その輸入貨物又はこれと同種、
   類似貨物の国内販売価格(以下「内販価格」と略称)があるときは、その内販
   価格から国内販売までの手数料、利潤等国内における諸経費を差し引いた逆算
   価格による。なお、この場合は次による。
  (1)同種若しくは類似の貨物は、輸入貨物と同一生産国のものに限られる。
  (2)国内販売は、輸入申告の日又はそれに近い日のもので、特殊関係のない買手
   に対し販売するものに限られる。
  (3)当該輸入貨物の内販価格には、輸入の許可前引取承認を受けた場合の内販価格
   を含む。
  (4)当該輸入貨物が、輸入申告後加工された場合の内販価格からの逆算も認められ
   る。この場合は、上記の国内販売のための手数料、利潤等のほか、加工により
   付加された価格も差し引いて逆算する。また、この加工後の価格からの逆算は、
   加工前の価格からの逆算ができない場合で、かつ輸入者が要請する場合に限ら
   れる。

 2.4 製造原価からの積み上げによる方法
   上記2.2,2.3の方法によることができない場合で、当該輸入貨物の輸出国
   における製造原価を確認できるときは、その製造原価に、当該輸入貨物と同類の
   貨物の輸出販売のための通常の利潤その他の諸経費及び当該貨物の輸入港までの
   運送に要する費用等を加えた積上げ価格を課税価格とする。
   なお、この方法は、輸入者の要請があれば上記2.3の方法に優先して適用さ
   れる。

 2.5 その他特殊な輸入貨物の場合の決定方法
   以上のいずれにもよることができない場合には、以上の方法に準ずるものとして
   関税定率法施行令で定める方法(WTOの評価規定に適合する方法として税関長
   が定める方法等)で課税価格を決定する。


3.注意事項及び補足

 3.1 加算要素及び控除要素
  (1)通常の値引き額は加算要素に含めない。
  (2)買手が無償で提供した物品の費用には運賃、保険料等も含める。
  (3)上表の加算要素(3)の役務は本邦以外において開発されたものに限る。
  (4)加算要素は、その含まれていない限度において加算するので、例えば保険をか
   けていない場合には保険料の算入は不要。
  (5)売手が負担した手数料等は貨物の価格に反映されているので加算要素に含めな
   い。買手が負担した手数料等(買付手数料を除く)は含める。
  (6)買手が負担する費用のうち、輸出国における関税は加算するが、払い戻しを受
   けた関税は加算しない。
  (7)輸入取引の条件として買手が支払うロイヤリティ又はライセンス料は加算要素
   である。
  (8)買手が自己のために行う検査費用は含めないが、売手に代わって行う検査費用
   は加算要素である。
  (9)買手が受けた融資の保証料は控除要素である。
  (10)国内販売のためのフランチャイズ料は控除要素である。

 3.2 特殊な事情のある場合の課税価格
  (1)輸入取引によらないで輸入された貨物、例えば贈与・無償提供品等については
   取引価格がないので原則によることができない。この場合は特殊な事情がある
   場合に準じて課税価格を決定する。
  (2)ハンド・キャリー品も輸入貨物として課税価格を決定する。
  (3)上記の特殊事情のある場合の規定の他、関税定率法
    第4条の5:変質又は損傷に係る輸入貨物の課税価格の決定
    第4条の6:航空貨物等に係る課税価格の決定の特例
   があるので、該当する場合はこれを併せて決定しなければならない。
                                       以上