EARの概要 EARは米国政府の対外政策の一環として実施される。従って、世界 情勢の変化に応じ随時改変が行われている。その目的とするところは 国際的な平和と安全の維持にある。 EARはこれを妨げる種々の事態に対応する規制を規定している。主 な規制対象は兵器等の開発、製造、或いはその拡散を助長する輸出等 である。その規制方法を大別すると次の二種類になる。 リスト規制−−−前記の開発等を助長する懸念のある、一定の 性能レベルを超える品目に限定して規制する。 KNOW 規制−−−上記と異なり品目を限定せず、所謂catch-all、 大量破壊兵器等の開発等を助長する懸念のあ る輸出等を規制する。 ここでは、上記二種類の規制方法を中心にEARの概要を纏めた。 (注)リスト規制/KNOW規制の呼称は、本稿で便宜的に付けた もので法令上の定義ではない。 1.EAR関連法令及び管轄部署 (1)EAR関連法令 EAR:Export Administration Regulations(輸出管理規則)は同名の法 律、Export Administration Actに基づき制定された。 その他関連する法律等は、例えば原子力法(Atomic Energy Act)、反テロリ ズム法(Anti Terrorism Act)等沢山あるが、§734.3(a)で「EARの規制を 受ける品目」とされているものに関連する法令対応はEARに盛り込まれて いる。逆に、EARの規制を受けない品目等(§734.3(b))については、その 他法令によらなければならない。 (2)管轄部署 EARの管轄部署は、商務省(Department of Commerce)の輸出管理局 (Bureau of Export Administration)、略称BXAである。 2.EARの特徴 (1)域外適用 EARは米国内の規則にも係らず、米国原産品目等の「EARの規制を受け る品目」はそれが世界中どこにあっても本規則を適用するとしている。これ をEARの域外適用と呼ぶ。 ここで、純粋な外国産品等はEARの対象としないので、具体的にはそれが 対象品目かどうか734章(EARの適用範囲)で確認する必要がある。 そこでは、少しばかり米国原産品を組み込んだ外国産品をEARの対象とし ない de minimis rule が採用されている。 (2)一般禁止事項 736章に一般禁止事項1−10を定めている。1−3は一定の性能レベル を超える品目の輸出又は再輸出を規制し、4−10は特に品目を限定しない 規制をしている。前者をリスト規制、後者の内5を KNOW 規制と呼ぶことが ある。供給不足を理由とするもの他本項によらないものもあるが、殆ど全て の規制が本項に基づき実施される。 (3)許可例外 740章に種々の許可例外(15種)が規定されている。もし、そのいずれ かを適用できれば、許可要であってもこれに基づき許可証なしに輸出又は再 輸出できる。具体的には、顧客・用途及び品目の性質から見て当然適用不可 と思われるものを除き、多くの場合に許可例外が適用できるのでこれを良く 検討する必要がある。但し、一般禁止事項4等適用できないものもある。詳 しくは、736章一般禁止事項、740章許可例外を参照のこと。 (4)catch-all規制と許可審査基準 一般禁止事項5に基づき744章に、最終需用者及び最終需用を規定してい る(KNOW 規制)。ここでは、原則として品目を限定せず、即ちcatch-all規制 とし、顧客(最終需用者)・用途により規制している。従って、先ず当該顧客 ・用途が本章で規制されているか否かを確認しなければならない。そして、 規制されている場合には許可申請書をBXAに提出するが、この場合の許可 審査基準が顧客又は用途の分類毎に記載されている。本規制は大量破壊兵器 等の不拡散を目的とするので、多くの分類が拒絶見込みで審査されるとなっ ている。 3.EARの仕組み (1)EARの規制を受ける品目(Items Subject to the EAR) 734章§734.3(a)に明記されている。その概要を次に示す。 @米国内にある全ての品目 A米国原産の全ての品目。その所在地を問わない。 B外国産品目に組み込まれた米国原産部品、材料等。但し、 その量が de minimis レベルを超えるものに限る。 C外国で生産された米国原産技術等の特定の直接製品 D外国にある上記Cのプラント等により生産された一定の貨物 但し、§734.3(b)で規定するものを除く。 (2)リスト規制 一定の性能レベルを超える規制対象品目を分類し、各分類毎に輸出管理分類 番号(ECCN:Export Control Classification Number)を付け、通商管理リス ト(CCL:Commerce Control List)に掲載する。また、ECCN 毎に規制理由、例 えばNS(国家安全保障),AT(テロ防止)等を記載している。 しかし、当該品目がCCLに掲載され、該当するECCNがあっても、下表 (例としてその一部分を表示したもの)のカントリーチャートにおいて、輸 出国と該当品目の規制理由の交わる桝目にXがなければ許可は不要である。 詳細は738章による。なお、通商管理リスト(CCL)の読み方について 本ホームページ1項も参照のこと。 カントリーチャート(例)
国 |
規制理由 | ||||||
化学&生物兵器 |
核不拡散 |
国家安全保障 | |||||
CB1 |
CB2 |
CB3 |
NP1 |
NP2 |
NS1 |
NS2 | |
アフガニスタン |
X |
X |
X |
X |
|
X |
X |
アルバニア |
X |
X |
|
X |
|
X |
X |
アルジェリア |
X |
X |
|
X |
|
X |
X |
アンドラ |
X |
X |
|
X |
|
X |
X |
[注1]前記により許可要となっても、許可例外が適用できる場合も あるので確認すること。 [注2]EARの規制を受ける品目でCCLに明記されていない品目 はEAR99番と呼ばれる。 (3)KNOW規制 規制対象品目を限定せず(catch-all)、用途及び最終需用者による規制を行 う。それは大量破壊兵器等の不拡散を目的とし、その懸念のある用途及び需 用者を744章で規定している。用途としては、核、ミサイル、生物・化学 兵器、海洋原子力推進等を、行為としては、米国人の一定の行為を、又最終 需用者としては、ロシアにおける一定の団体、パキスタン及びインドにおけ る一定の団体等に関する制限を行っている。前記団体等は744章団体一覧 表にも掲載されている。なお、これらの制限は輸出者等がこれら制限に抵触 することを知って(KNOW)いながら輸出等することを禁止している。この場合、 BXAに許可申請しなければならないが、各制限毎に規定される許可審査基 準によれば、多くの場合拒絶見込みとされている。 なお、BXAより個別に通知を受けるか、或いはEARの改正を通じて許可 要となった場合は、前記にも係らず必ず許可が必要である。 ここで、我が国の補完的輸出規制と比較して見ると、用途及び最終需用者に ついては大筋で一致していることが分かる。従って、当該輸出等が前記の補 完的輸出規制に違反しないか調べた後、EARの744章で確認するのが能 率的ではないかと考える。補完的輸出規制については本ホームページの本基 礎知識(7)も参照のこと。 なお、当該輸出等がEARの規制を受けなければ本規制は適用されないので、 先ず次項で確認する必要がある。 4.EAR使用手順 EARの732章にEARの使用手順が記載されている。 その内の許可要否判定についてフローチャートにまとめたものが@「私は EARの規制を受けますか」(732章補足No.2)及び、A「決定のための枝 分れ図」(732章補足No.1)にある。これらを下図に示す。 具体的には、先ず@で自分がEARの規制を受けるか否かを判定し、次にA で計画している輸出又は再輸出或いは行為が許可を要するか否かを決定する。
(筆者注)上図の”米国人”には米国市民、米国法人、米国内にいる者等を含む。 詳細は§744.6(c)による。
(筆者注)上図のCCL&カントリーチャート使用時、CCL「非該当」ならNoへジャンプ。
5.まとめ (1)EARには種々の規制があるが、本稿はリスト規制とKNOW規制に限 定しその概要を纏めたものである。 その他報告要件、輸出通関手続き等々については別途検討する必要がある。 (2)EARの域外適用は米国原産品等を通して行われるので、先ず当該品目が EARの規制を受けるか否か判定し、次にその規制内容を確認する必要があ る。その判定フローを4項に示した。 (3)EARの規制を受ける品目でCCLに明記されていない品目はEAR99 番と呼ばれ、これにより全品目に輸出管理分類番号が付されたことになる。 ここで、CCL上に分類されECCNが付された品目は一定の性能レベルを 超えるものに限るので、それ以下のものは分類から外れるように思えるが、 それは該当品目の性能を規定するのであって、分類上は性能に係らずその分 類に属するものと見なす。 (4)KNOW規制についても域外適用されるが、この場合にも先ず当該品目が EARの規制を受けるか否かを決定する必要がある。純粋な外国産品等には EARは適用されない。4項の判定フローを参照。 以上