英文翻訳の基礎知識

 

1.はじめに

  私は趣味でEARの翻訳をしている。英語を専門的に学習し、或いはそれを

 職業とした経験はないが、学校教育において、或いは職場において英語と浅く

 長く付き合ってきた。文法はしっかり覚えていないけれど、定冠詞 the が付

 けば読み手には既に分かっているものを指す等々、基礎的な学習はしてきたつ

 もりである。しかし、実際にEARと言う輸出規則を翻訳するとなると、一つ

 の文に幾つもの句や文節が入っていて、それがどれをどのように修飾している

 のか、相互の関係及び区切りを見分けるのに大変苦労した。その中心課題は構

 文解釈であった。そこで、特に解釈に苦労した事例を纏めておき今後の資料と

 したいと考え本稿を起こした。

 表題を基礎知識としたのは、自分にとって基礎的な重要項目を纏めたものと言

 うだけの意味であって、ここに全ての基礎知識が網羅されていると言うもので

 は全くない。表題位は多少誇張して人目を引きたいと思ったものでご容赦願い

 たい。

 なお、本稿は未完のようなもので、今後さらに苦労して気付いたことなどがあ

 れば随時、補充・補強したいと思っている。



2.構文解釈の要点

 (1)文は複数の語、句、文節から構成されている。文節は主語と述語を含む。

    一つの文節には各一個の主語と動詞がある。

 (2)文中の語、句、文節間の関係、並びに文節中の同様な関係、所謂文の構

    成を明確に把握することが重要である。

 (3)成句(idiom)があれば先ずそれを適用する。そのままでなく、それを修

    正(modify)して用いられる場合もある。

 (4)動詞と前置詞の組合せについて、辞書で良く確認する必要がある。

    例えば、order some new books from England をEngland から注文する

    と訳せば誤りである。辞書《研》によれば England へ注文するとなっ

    ている。

 (5)事例(11)に示すように、句の区切り及び構文を正確に把握する必要があ

    る。正確にと言うのは、文法、辞書等に則って行い、自分勝手な思い付

    きや不正確な記憶によらないことである。

 (6)新しい用語、術語等、辞書に載っていないものがある。或いは載ってい

    てもその用例を知りたい場合がある。このような時はインターネットで

    web 検索をすると沢山の用例を見付けることができる。そのWEBサイ

    トとして下記のgoogle 等がある。

         http://www.google.co.jp/

 (7)文面上の解釈(直訳)は一意的なものになるまでしっかり読み取り、そ

    れから訳出しなければならない。訳は上手下手があってもそれは致し方

    ないけれど、すぐ読み返してその訳が読み取ったものを表していること

    を確認するようにすること。



3.凡例

 参照する辞書の略号を下記の通りとする

   講談社英和辞典;《講》    

   研究社リーダーズ英和辞典第2版;《研》

   日外アソシエーツ実用英語大辞典;《日》

 事例は特に断らない限りEARの条文により、出処を§760.2(d)EXAMPLES...

  (A)の如く記載する。

 

4.事例集

 各事例は(タイトル)、要旨及び根拠、事例及び説明の順に一定の形式で記載

 する。ここに掲載した事例のタイトルを次に示す。

    (1)等位接続詞 and;二者一体の場合

        (2)等位接続詞 and;並列的に句をつなぐ場合

        (3)関係代名詞の先行詞

        (4)前置詞 + 関係代名詞

        (5)不定詞の意味上の主語

        (6)所有格の用法

        (7)前置詞句の副詞的用途

        (8)be+前置詞句

        (9)be+to つき不定詞

        (10)句読点

        (11)自動詞と他動詞

        (12)分詞構文

        (13)形容詞的分詞の位置と機能

        (14)不定詞・前置詞を伴うか節中にある疑問代名詞

 上記事例の掲載順序、分類等に特別な配慮は行われていない。

 なお、[休憩室](14)(15)に掲載した事例も参照のこと。



(等位接続詞 and;二者一体の場合)

 「要旨及び根拠」

  二つの語・句を接続し一体となっていることを表す場合

  《講》P46

     冠詞を付ける場合には最初の語のみに付ける。これらの語句が主語と

     なるときは、動詞との呼応に注意

      a carriage and four 4頭立ての馬車

      Bread and butter is good for most sick people. バター付きの

       パンは大抵の病人に良い。;主語は単数だから is が用いられる

 「事例及び説明」

  ・§760.2(a)EXAMPLES...,REFUSALS...(IB)

   a U.S. engineering and construction company

   合衆国の建設設計・施工会社;一つの会社



(等位接続詞 and;並列的に句をつなぐ場合)[注]

 「要旨及び根拠」

  並列的に句(語ではない)をつなぐ場合は、前置詞等を含む句が対等に接続

  されている。前後の繋がりに注意

 「事例及び説明」

  ・§766.12(a)(3)

   stipulations of fact and of documents

   実際の及び証拠資料の規定(実際に適用される規定と書類上の規定);

   of fact とof documents が等しく前のstipulationsに掛かる。

  ・§760.2(d)EXAMPLES...(E)

   relating to A's technical competence and professional experience

   Aの技術能力と職務経験に関連する;technical competence と

   professional experience が対等に接続され、それを一纏めにしてAの所

   有格の対象とし、この所有物が前のrelating toに掛かる。

  [注]同等の語句が三つ以上ある場合のand/orの省略については[休憩室]

     (14)『英文翻訳のつぼ』を参照

 

(関係代名詞の先行詞)

 「要旨及び根拠」

  先行詞は関係代名詞の直前の名詞又は名詞句である(制限的用法に限る)。

  《講》P1084

     I know a boy who speaks English very well.は次の二つの文が結び

     ついたものと考えることができる。

     @I know a boy.   AThe boy speaks English very well.

          ここで boy が2度繰り返されているから、2度目の boy を関係代名

          詞 who に置き換え、その前にある boy を先行詞として結合している。

 「事例及び説明」

  ・§760.1(e)EXAMPLES...(C)

   A receives for implementation a letter of credit which in fact 

      contains a prohibited condition

   Aは禁止された条件を事実上含む信用状を履行するために受取っている;

   先行詞は letter of credit であって、次の二つの文が結びついたものと

   考えることができる。

    @A receives for implementation a letter of credit.

    AThe letter of credit in fact contains a prohibited condition.



(前置詞 + 関係代名詞)

 「要旨及び根拠」

  関係代名詞を含む関係節を一つの文に分離した時、その文中において先行詞

  に相当する句の前に前置詞が付く場合である。関係代名詞の格は、もっぱら

  関係節中の役割で決まるもので、先行詞が主節中でもつ格とは関係がない。

  本項の場合は、前置詞の目的語となるから関係代名詞は目的格が用いられる。

  《講》P1084

     This is the village in which I was born.は次の二つの文が結びつ

     いたものと考えることができる。

     @This is the village.   AI was born in the village.

     前置詞 in を落とすとI was born the village となり英語では

     このような表現をしないから誤り。

 「事例及び説明」

  ・§760.2(a)(2)

   This includes a situation in which a United States person chooses

      one person

   これには米国人が或る者を選択する場合を含む;先行詞は situation で

   あって、次の二つの文が結びついたものと考えることができる。

     @This includes a situation.

     AA United States person chooses one person in the situation. 

      前置詞 in  を落とすとAが文章として成り立たなくなる。この和訳は、

      @これは或る場面を含む。そして、Aで米国人が’その場面で’或る者

      を選択する、そう言う場面を規定していることが分かる。

  ・§760.2(a)(4)

   a boycott-based list of persons with whom he will deal

   不買同盟を根拠とする取引して良い者の一覧表;先行詞は persons であ

   って、次の句及び文節が結び付いたものと考えることができる。

     @a boycott-based list of persons

     Ahe will deal with the persons. 

      この和訳は、@不買同盟を根拠とするある者達の一覧表で、A彼がその者

   達と取引してよい、’そう言う者達’を規定している。

  ・§760.2(f)(1)

   a condition or requirement compliance with which is prohibited 

   by this part

   本章により従ってはならないとされている条件又は要件;先行詞は 

   condition or requirement であって、complianceではない。compliance

   は次のように関係節Aに属する。

     @a condition or requirement

     Acompliance with a condition or requirement is prohibited 

      このcompliance が先行詞ではなく、Aの関係節に属することは重要である。



(不定詞の意味上の主語)

 「要旨及び根拠」

  不定詞は特定の主語と結びついていないことを、その特質の一つとするが、

  動詞は動作や状態を示す語であるから、その動作・状態の主体が考えられる。

  それを意味上の主語と言う。本事例は意味上の主語を文の主語以外のものに

  した場合、下記のA(b)の例である。

  《講》P647

     @他動詞の目的語としての不定詞

      I want to go. 文の主語 I と同じ

      I want you to go. you が意味上の主語

     Aその他の場合の意味上の主語

      (a)I want something to read. 文の主語 I と同じ

      (b)I want something for children to read. 

               意味上の主語を文の主語以外のものにしたいときには

        上記の如く"for + 名詞・代名詞"を不定詞の前に置く。

 「事例及び説明」

  ・§760.2(a)EXAMPLES...,REFUSALS...(I@)

   , in order for A to obtain prompt service ,

   Aが迅速なサービスを得られるように;for A を不定詞の前に置いて、文

   の主語以外のAを意味上の主語としたもの。もし、これを省略すると'迅

   速なサービスを得る者'が不明確になる。



(所有格の用法)

 「要旨及び根拠」

  名詞及び代名詞の所有格の用法であって下記の事例の根拠。

  《講》P998

     @動作の主体 

      the doctor's care 医者の世話(治療)

     A動作の目的

            his dismissal 彼の解雇(雇い主が彼を解雇すること)

 「事例及び説明」

  ・§760.2(a)(2)

   another person's boycott-based selection

   別の者の不買同盟を根拠とする選抜(別の者を選抜すること);

   動作の目的を表す

  ・§760.2(d)EXAMPLES...(H)

   its being placed on boycotting country Y's blacklist

      それが(本例の主語であるA社)排斥国Yのブラックリストに載せられる

   こと;itsは動作の主体を表す



(前置詞句の副詞的用途)

 「要旨及び根拠」

  前置詞句には形容詞的・副詞的・名詞的用途がある。いずれの用途に用いら

  れているかは、文脈から判断しなければならない。

 「事例及び説明」

  ・§760.2(d)EXAMPLES...(F)

   would be volunteering information about A's business 

      relationships with X for boycott reasons

   不買同盟を理由として、AのXとの業務関係に関する情報を自発的に申し

   出ている;前置詞句 for boycott reasons は volunteering に掛かる副

   詞的用途である。一方、about〜with Xまでは、informationを修飾する

   形容詞的用途である。もし、for 以下を前の句を修飾する形容詞的用途と

   すると、この文節の意味が取れなくなる。



(be+前置詞句)

 「要旨及び根拠」

  前置詞句が be 動詞の補語として使われる場合は主語の意味を補足する。

 「事例及び説明」

  ・§760.2(d)EXAMPLES...(I@)

   U.S.company A is on boycotting country Y's blacklist

   合衆国の会社Aは排斥国Yのブラックリストに載っている;on 以下の

   前置詞句は主語A社の状況を補足するもので、形容詞的用途に用いられ

   ていると考える。



(be+to つき不定詞)

 「要旨及び根拠」

  不定詞の特殊用法の一つであって、予定・義務・必然・可能などの意をあ

  らわす。

  《講》P649

     We are to have an examination tomorrow.

          われわれは明日試験があることになっている。 

 「事例及び説明」

  ・§766.5(e)

      The last day of the period so computed is to be included

   計算上期間の最終日となる日は含まれることになっている;



(訳語は文脈に合わせて選択する)

 「要旨及び根拠」

  一つの語に対し多数の訳語がある。例えば、下記の語は名詞と分かってい

  ても、代理人を取るか見本をとるかでは訳文は全く違ったものになる。

     representative;代表者、代理人、代議士、販売員、販売代理人、

             後継者、相続人、見本、標本、類似物 etc

  従って、前後の文脈から筆者の意図を読み取って、それを表現するために

  適切な訳語を選択し翻訳しなければならない。

 「事例及び説明」

  ・§760.2(d)EXAMPLES...(F)

   U.S. company A sends a sales representative to Y

   合衆国の会社Aは販売代理人をYに派遣する;salesに関係する者だから

   ’販売代理人’を選択する。



(句読点)

 「要旨及び根拠」

  句読点には幾つかの記号が用いられるが、ここではコンマ(,)、セミコロン

  (;)、コロン(:)の事例について説明する。

    @コンマ(,)は短い休止を意味する。前の句の言い換え等にも用いられ

     る。その他様々な用法があるので注意すること。

    Aセミコロン(;)はコンマより長い休止に用いる。セミコロンで区切る

     部分はそれらが一体となって一つの文を構成する。

    Bコロン(:)はものを列記する時に用いられる。そのコロンの後に事柄

     の列記、説明、引用などが出てくるのだと知らされる。

 「事例及び説明」

  ・§760.2(d)EXAMPLES...(IF)

   U.S. company A, a manufacturer of certain patented products,

   ある種の特許で保護された製品の製造業者である合衆国の会社Aは、;

   , ,で区切られた句は前のU.S. company A を言い換えて補足説明して

   いる部分である。

  ・§736補足No.1, General Order No.3(a)

   , as follows: Gulf Falcon Group, Ltd. located in Doha, Qatar;

    ・・・は下記の通り。

    カタールのドーハ所在の Gulf Falcon Group, Ltd.;

   ここで、コロン(:)の後に許可例外の使用が禁止された企業名が列記され、

   それら企業名の区切りにセミコロン(;)が用いられている。なお、これら

   企業名は一体となって許可例外使用禁止企業を構成している。



(自動詞と他動詞)

 「要旨及び根拠」

  動詞は自動詞であるか、他動詞であるかであって、他動詞は目的語をとる。

  その違いにより句の区切りを見分けられる場合があるので、その事例につい

  て説明する。なお、この特質は不定詞においても変化しない。

 「事例及び説明」

  ・§746.7(a)(1)(@)

   You seek authorization to export from the United States;

   輸出承認を合衆国から得たい場合;from 以下は export の目的語、若し

   くは補語でもない。seek sth from sb の構文である。従って、合衆国か

   ら輸出することではなく、合衆国に求めるのである。もし合衆国から輸出

   することにしたいなら to export it from ...の如く目的語itを挿入しな

      ければならない。



(分詞構文)

 「要旨及び根拠」

  《講》P935

     主節と従属副詞節とからなる複文において、双方の節の主語が同一で

     ある場合、副詞節の述語動詞を分詞の形に改め、主語と接続詞を省略

     することができる。こうして新しくできた副詞句を分詞構文と言う。

     副詞句は、時・理由・原因・条件・譲歩・付帯状況などをあらわす。

     When he saw me, he ran off. → Seeing me, he ran off.

     私を見ると彼は逃げ去った。

 「事例及び説明」

  ・§760.1(d)EXAMPLES...,UNITED...(E)

   U.S. company A issues policy directives from time to time to its

      controlled foreign subsidary, B, governing the conduct of B's

      activities with boycotting countries.

   合衆国の会社Aは、その管理する外国にある子会社Bの排斥国に対する行

   為を管理するために、時々Bに施策指示を発している。;governing 以下

   の句が分詞構文であって、接続詞 because 及び主語 U.S. company A が

   省略され、動詞 govern が分詞の形に改められている。



(形容詞的分詞の位置と機能)

 「要旨及び根拠」

  《講》P934

   ここでは現在分詞と過去分詞の形容詞的用法における機能と位置について

   説明する。

     @限定形容詞として

      a rising tide 上げ潮

       a spoiled child 甘やかされた子供

      (補足:分詞の部分が2語以上から成る形容詞句ならば、修飾した

          い名詞の後ろに置かれる。)

     A同格的位置

      A woman, frightened and quaking, ran up the steps.

      ひとりの女がすっかりおびえ、震えながら階段を駆け上がった。

      Disgusted, he left the room.

      全くいや気がさして彼はへやを出た。 

     B"the + 分詞"で複数名詞を作る

     C補語として用いられる

      The delay was maddening. 遅れは腹が立つほどだった。

 「事例及び説明」

  ・§746.9 前書き

   the Federal Republic of Yugoslavia, including Kosovo,

   コソボを含むユーゴスラビア連邦共和国;現在分詞 including はAの用

   法であり、これは分詞構文の一種である。この例のように現在分詞は修飾

   すべき名詞句の前に置かれることが多いように思う。

  ・§746.9 前書き

   any arms embargo mandated by resolution of the UNSC

   国連安全保障理事会(UNSC)決議により委譲された一切の武器取引禁止;

   過去分詞 mandated はその前の名詞句を修飾する@の限定形容詞であるが、

   @と異なり後に置かれている。一般に本事例の如く過去分詞は後置される

   場合が多いように思う。



(不定詞・前置詞を伴うか節中にある疑問代名詞)

 「要旨及び根拠」

  《講》P1515

   I wonder which(which book)to read first. 

   どっち,どれ(どっちの本,どの本)を先に読んだものだろうか。

   In which sense is the word used here ?

   この語はここでは(どちらの)意味で用いられているか。

   Which of them did you get it from ?

   彼らのうち、どちら(だれ)からそれをもらったか。

 「事例及び説明」

  ・§766.22(b)

   receipt of any response(s)in which to submit replies

      そのために答弁書を提出すべき応答書の受領;which は関係代名詞であっ

   て、その前のresponse(s)が先行詞である。そのために第ニの訴答を要す

   る複数の答弁書を受取った時を意味する。

   (本例は疑問代名詞の用例になっていない)

                                  以上



[改訂来歴]

 REV1. '04.8.13 (前置詞+関係代名詞)の「事例及び説明」に・§760.2(f)

         (1)を追加した。

 REV2. '06.7.05 (形容詞的分詞の位置と機能)の「要旨及び根拠」@に

        (補足:)を追加した。

 REV3. '08.7.29 (不定詞・前置詞を伴うか節中にある疑問代名詞)の「事例及

                 び説明」におけるwhichは疑問代名詞でなく、関係代名詞なの

         で説明文を訂正した。